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第35話
前立腺を突かれたかと思えば、その直後最奥を突き上げられ、省吾は数瞬息を詰めた。
その直後に押し寄せてくる極上の快楽が、身体中に痺れをもたらす。
「あ、あ……」
「スゴ……イきっぱなしじゃねーか……」
こんな省吾を見るのが初めてなだけに、楓はゴクリを生唾を飲み込んだ。
口を小さく開いてふるふると震わせ、眦に溜まった涙を零し、震える身体を下から楓に押し付けてくる。
「綺麗な顔したピアニストが、実はこんなに淫らでしたとか……」
だが省吾の本当の姿を知っているのは、この世界で楓だけだ。
そのことが、心から嬉しいし、誇らしいと思う。
「か、楓さん……?」
「何だ?」
「俺より……絶対に……先に逝かないで……置いて逝かないで……」
省吾が心底怖れているのは、また愛する人を亡くしてしまうことだった。
人として生まれたからには、数十年後に死と向き合うことは明白だが、不慮の事故で命を落とすようなことは絶対にしないでほしい。
「俺のために……生きて……」
「当たり前のこと言うなよ。約束してやる」
「ホントに……?」
「ああ、マジだ」
楓はパン──、と思い切り突き上げながら、髪を振り乱して腰を振る。
肉棒に絡みつく肉襞の感触が心地いい。
セックスなんて粘膜と粘膜を擦り合うだけの行為だとまで思っていたのに、省吾とのセックスは身体を繋げるだけではなく、心を繋げる行為でもあるのだと思える。
ひたすら突き上げていくと、首に巻き付いていた省吾の腕が、背中へと移動した。
そしてあまり長くない爪を、食い込ませてくる。
「あ、あ……あン……うッ……」
妖艶で扇動的な喘ぎに、どうしようもなく狂わされる。
楓自身ももう限界なのだ。
「俺、イきそ……ッ、いいか?」
「ん……」
「はっ、はぁっ……くぅ──っ!?」
楓は奥まで挿れた状態で身体をしならせ、薄いゴムの中に、ドクドクと脈打つ性器から流れた精液が吐き出されていくのを実感していた。
この瞬間がたまらない。
気持ちがよくて、達成感があって、もう一度愛したいと願ってしまうような絶頂。
これまでのセックスでは味わえなかった感覚でもある。
「なぁ、今更なんだけどさ……」
「何だよ……?」
「俺ら、一緒に暮らそうぜ」
楓が上体を少し起こして省吾の顔をまじまじと見つめると、省吾はプッと吹き出した。
「ふは、ホント、今更だけど……よろしくな」
そうして2人はキスをする。
消えない過去への上書きは、とうとう完成した。
今度は新しい記憶を蓄積する番なのだと、2人ともちゃんとそのことをわきまえていた。
(終わり)
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