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第2話

きっかけは中学3年生になって、1ヶ月が経った頃だった思う。 クラスが一緒だった小学校からの友達が、ある日ふと僕の『日々の足跡』を見て言った。 「湊って、こんなとこでも真面目なのな」 『日々の足跡』とは、担任の先生との交換日記みたいなもの。学校であったことを毎日5行以上書くのが宿題で、僕は律儀にもきっかり5行ずつ、毎日の反省と良かった点を書いていた。 『今日は5分前着席が守れなくて残念でした。明日は意識するようにしたいです』 『今日は全部の授業で手を挙げることができて嬉しかったです。明日からも続けていきたい』 定型文のずらりと並んだ文章は、遠目から見てもカッチリしていて読む気が失せる。毎日ご丁寧に赤ペンで返信が書かれていて、でもそれも読む気にはならなかった。 だってこんなの、嘘を書き連ねているだけ。 残念だなんて、嬉しかっただなんて、これっぽっちも思っちゃいない。 「湊もこれくらい遊んでみればいいんだよ」 そう得意げに笑った友達の手にあった『日々の足跡』には、楽しげな会話が踊っていた。 趣味、先生への質問、意味のわからないギャグに、彼のオリジナルであろう女の子の絵。 それは僕の持っている『日々の足跡』と同じものなのに、全然違うものに進化を遂げていた。 「楽しそう……」 「だろ?湊も遊んでみろって。この先生、面白いぞ」 友達の言う通り、今年の担任の先生は当たりらしかった。優しくて厳しくて、ちゃんと生徒の話を聞いてくれる。そんな評価が流れているのを噂で聞いて、でもくだらないと思っていた。 どうせ今年の担任だって、僕を『いい子』としか見ない。先生なんて、みんな同じだ。 ただでさえ忙しいのだから、手のかからない子に自分から世話を焼いて、仕事を増やそうなんて思わない。 だから友達の提案に乗ったのは、ほんの出来心だった。どうせ書くこともないのだからと、自分が最近ハマっているアニメについて5行語ってみたんだ。

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