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第5話
『メアド、欲しいです』
最後の通常授業の日。つまり『日々の足跡』を先生に見てもらえる最後の日の最後の行に、僕はそう書いていた。
先生とずっと繋がっていられるのは僕だけだったらいいのに、なんていう淡い期待を抱きながら。
先生はちゃんと約束を守ってくれた。
だから卒業も全然辛くなかった。
高校は先生の手柄の足しになればと、ここら辺で一番の場所を狙って一生懸命勉強して。
先生の前では本物の『いい子』になれるように努力した。
理想の自分であれ、と言い聞かせて。
きっと先生も夢を追いかけてる子の方が好きだろうから。
そう思い続けた結果、見事その合格を勝ち取って、僕は初めてメールをした。今までしなかったのは、自分なりのけじめだ。
『湊です。先生であってますか?』
サバサバしたところのある先生がメールなんて似合わなくて、最初は嘘のメアドを渡されたんじゃないかと本気で疑っていた。
まぁでもそれならそれでいいかと、失礼だと思いながらも確認のメールを送る。
『あってるよ。疑うなんてひどいな』
『イメージじゃなかったのでつい。それより僕、高校受かったんですよ!あと、メールってどれくらいの頻度までならいいですか?』
『良かったね、おめでとう。メールはしたい時にどうぞ。都合よければ、返信するから』
入学式の話をしたら、先生の子供も小学校の入学式だと教えてくれて。親バカな先生が可愛くて、でも手の届かない人だと改めて気付いた。
『先生からもメール送ってきてくださってもいいんですよ?』
だから少しでも特別が欲しくて。
でも先生は、大人な対応でそれを交わす。
『宿題に追われる学生にメール攻撃は酷でしょ?楽しいからメールは続けるけどね』
それが本心なのか、それとも自分から送るのはめんどくさいからなのかは分からない。
でももし本心だったら、僕なんかとの会話を楽しいと思っていてくれるなら、それ以上に嬉しいことはない。
もちろん欲を言えば、先生からの自発的な言葉が欲しかったのだけれど。
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