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最終話
「前に、ずっと好きな人がいるって言ったの覚えてる?」
「覚えてる」
そう答える俺から視線を外した瀬戸内は、側のデスクに手を伸ばし卒業式のあとに在校生達から受け取ったであろう花を一本手に取る。
それは、一本ずつラッピングされた紅いバラ数本。
「ケイちゃん、バラの花言葉ってなんだか知ってる?」
「バラ?知らないよ」
そんな花言葉なんて詳しいはずもない俺に、その一本のバラを手渡し告げられた。
「紅いバラ一本だと“一目惚れ”って言う意味……」
それから、返事を待たないうちにあと二本を俺に手渡す。
「それで、紅いバラ三本で花言葉はまた変わるんだ」
「どう変わ……」
「───“あなたを愛してます”て意味に変わる」
「あなたを……愛して、ます……」
「そう。これで分かっただろ?俺がずっと好きだった人はケイちゃん…学生時代に兄貴と付き合ってる時から、ずっと、好きだった」
「……嘘だろ」
「嘘じゃない。学生時代に家に遊びに来たケイちゃんをたまたま見かけて一目惚れしたんだ。その後兄貴は一人暮らし、両親は離婚して俺は引越してケイちゃんに会うチャンスは絶望的になった。だけど、ずっと忘れられなかった。」
「じゃあ、あの日俺を助けてくれたのは……」
「あれは本当に偶然だった。最初見かけた時は他人の空似だと思ったくらい。でも、酔っ払った勢いで兄貴にふられた話をしていたのと、あの指輪の裏側を見て確信した。それで、もう兄貴のものではないなら…と、誘ったら…」
「俺はその誘いに乗ったってことか…」
「それから“先生”として再会した時はこれは運命なんじゃないかって。だけど、兄貴を忘れられないでいるケイちゃんに想いを打ち明けたって意味がない。なら、兄貴の代わりでもいいからそばにいたいって。だから卒業までと気持ちを割り切って関係を要求した。でも一緒にいればいるほど届かない想いが辛くて……」
「だから消えたのか」
「本当は打ち明けないまま留学しようと思ってたんだ。だけど、卒業式までと線引きをしたのは俺だから、最後に全部打ち明けてケイちゃんを忘れようとした。嘘ついてて本当にごめん……今日でちゃんと諦めるから、だから……」
そういうことか……
なら、俺だって……
「瀬戸内……手貸せ」
「……え?」
「このバラ、全部そのままお前に返す」
「……迷惑だもんな、そうなるよな」
「何言ってんだよ、勝手に話終わらすんじゃねーよ!」
「ケ…イちゃん?」
いつからか、俺は偽ることを偽っていたけど、もうその必要はないんだ。
「お前がいなくなって気付いたんだ……とっくに陽加のことなんて忘れていたんだって」
「それって……」
「俺もお前のことが……陽加じゃない、奏多のことが、好き……だ……」
「嘘……」
だから、
目を閉じ、
目の前の奏多を想い、
「本当だよ」
そう告げ、
その震える唇に、
キスをした────
END
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