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第103話
全て捨てて何処か遠い場所で誰にも知られずに二人だけで生きていけたならどんなに幸せか。
けれど紫ノ宮の名前がそれを許さない。何としても捜し出して強引に連れ戻されるのがオチだろう。そうなったら永絆を一人残してしまう事になる。
菫を亡くして一人になった永絆に、これ以上寂しい思いをさせたくはない。もう一人ぼっちにはしたくない。これからはずっと一緒に生きていきたい。
その為には紫ノ宮の――両親の許しがなければ。
婚約の話が急に進んだのも永絆の事が知られたからだろう。絶対に婚約を成立させてはならない。永絆に言えば不安にさせると思って、解決したら話すつもりが裏目に出てしまった。
「頼むから信じてくれ」
今はそれしか言えない。後は永絆次第だ。
どうにかして紫ノ宮の一族を説得して永絆を正式に番として認めさせたい。
「……藍……。オレだって分かってるんだ。藍と番になる事が難しい事。だから今、一緒にいられる時間だけでも大切にしたい」
「永絆、そんなこと言うなよっ……」
「番になれなくても構わないんだ。ただ、今だけは……藍に沢山愛されたかった。身体中で藍を感じたかった。でも藍は……抱いてくれない」
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