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漆章 第105話

 藍は何も言わなかった。  ただ辛そうな顔をして永絆から身体を離すと自室へ篭ってしまった。  ――それが二日前の話だ。  その日から藍とは顔を合わせていない。自室に篭った藍に話しかけても返事はなく、永絆は久々に自分の家で一人で眠った。  大学へ行けば会えるかと時間を見計らって待ってはみたものの、藍は姿を現さず溜息を吐きながら講義を受けた。  きっと藍は怒っているのだろう。  紫ノ宮家にΩである永絆を認めて貰うために両親を説得していたのに、その永絆から番にはなれないと言われたのだから。  しかもそれが身分が違うせいではなく、性的な問題だと言うのだから納得がいかないはずだ。  永絆を大切にしているからこそ、己の欲だけで振り回したくないと思って藍は手を出してこなかっただけなのに。  会いたくないと避けられて当然だ。それでも会ってきちんと話をするべきだ。  茉莉花が現れなければ今もまだ藍の側で穏やかに過ごしていた。けれど現状を知ってしまったからには側にいても辛いだけだ。藍には自分勝手だと思われるだろうが、これ以上一緒にいる事はお互いにとって良くない。  藍がどんなに説得しようとも紫ノ宮家はΩを認めたりしない。そういう一族なのだから仕方ない。諦めるしかない。 「諦められないけど」  ポツリと呟いて携帯を手にした。  諦められなくてもやらなければいけない事がある。  こんな中途半端な終わり方では藍は自分に対してモヤモヤした気持ちを残してしまうだろうから。きっちりと終わらせなければ。

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