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第165話

 親に捨てられ、この世の終わりの様な生活をして、儚く哀しいΩに拾われたあの頃。全てに絶望して自分の性を呪い、それでも何かを期待して生きていた。  やがて出逢った魂の番との未来のない関係にもΩだから仕方ないと冷めた目で見ていたのに、今ここでその番と幸せに暮らし新しい生命を授かった。  これ以上、何を望むことがあるだろう。 「藍がオレを諦めないでくれて良かった。藍がオレの魂の番で、本当に良かった」  今、心からそう思える。  何度も悩み迷い、打ちのめされて、それでも手を伸ばし抱きしめてくれた彼の強さを番として誇りに思う。 「永絆……」  永絆の頬に藍の手が触れる。それはとても温かくて心地良い手のひら。頬を擦り寄せて甘えると優しいキスで口唇を塞がれる。  今がとても幸せで、これ以上の幸せはないのではないかと思うくらい満たされた毎日。  けれどきっとこの小さな生命が産まれてきたら、もっと幸せになれるだろう。子育てへの不安はあるけれど、それもいつか懐かしい思い出となって幸福で包まれる。  未来はきっと、自分が思うより明るい。  抱き合って幸せを噛み締めていると玄関のチャイムが鳴った。あまり近所とは関わらないように暮らしてきたから誰かが訪れるのは珍しい。

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