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第164話
「大丈夫だよ、藍。切れたりなんかしない。オレにはこれがある」
そう言って自らの項の噛み跡に触れると永絆は藍を見上げて微笑んだ。
「藍を信じてる。離れ離れになっても番が解消される事はないって今は信じられるんだ。でも離れたくないから、縋りついて離さないよ」
沢山の不安と憤りを抱えながら生きてきた。そんな中で出逢えた魂の番にさえも素直になれないまま、いつもどこかで諦めていた。
だけど今は違う。こんな寒い場所まで何も持たずに追いかけて来て、自分の意思で全てを決めるようになった藍が居る。
まだまだこれからもっと困難が待ち受けている。藍の家の事も避けては通れない。
それに新しく産まれてくる生命がこの身体に宿っている。人間を一人育てる事がどんなに大変か、想像でしか分からないけれどそれでも大切に育てたいと心から思う。
産まれてくる子がαでもΩでも構わない。βの可能性もある。どんな性別でも構わない。この子を誰よりも愛し、家族がどんなに良いものなのか教えてあげたい。自分にはなかった家族の幸せを沢山与えたい。
「それにね、この子がいる。オレと藍の遺伝子、半分ずつ分けた魂《いのち》だよ。オレ達、もうちゃんと繋がってるんだ。家族なんだよ」
お腹に触れて心から慈しむ。
こんな未来が待っている事をあの頃の自分は知らなかった。
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