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第163話
「ねぇ、藍」
切羽詰まった藍の手を取って永絆はその手を自分の頬にあてた。
「オレは別に籍を入れなくても構わないよ」
「永絆? なんで? 俺じゃ嫌か?」
頭を横に振って否定すると、重ねた手をぎゅっと握った。
「戸籍なんてさ、大して問題じゃないんだよ。オレはそれをよく知ってる。実の親でも簡単に縁を切られて他人になるんだ。そんな紙の上だけの形、オレは拘らないしいらないよ」
「……永絆……」
Ωというだけで未成年だった永絆を捨てた親。同じΩだからと永絆を家族として受け入れた菫。どちらも今の永絆を作り上げた存在。
形式だけのものがどれほど脆いかを永絆は誰よりも知っている。
「それに、オレには藍がいる。番がいるんだ。しかも逢えるかわからない魂の番だよ? こんなに凄い事は無いよ」
「永絆……永絆の気持ちは分かったけど、子供にとっては良くないんじゃないか?」
いつか戸籍の欄に父親の名前がない事でショックを受けるかもしれない。そんなのは辛い。
「俺はさ、永絆に家族になってほしいんだ。戸籍上でも、毎日の生活の中でも、絶対に切れない絆が欲しいんだよ」
家族に恵まれなかった永絆に今度こそ幸せな家族を与えたい。捨てたり、拾ったり、簡単に切れる関係しか出来なかった永絆の為に。
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