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第169話

***  紫ノ宮の使いの者が来た日から特に何もなく一週間が過ぎた。  相変わらず、見張られてはいるけれどあれ以来声も掛けてこないので藍も永絆もそのまま様子を見る事にした。  藍は変わらず朝、仕事へ行って夕方、寄り道もせずに帰宅する。  冬は日が短い為、夕方でも外は暗く寒い。冷たい身体で帰宅する藍の頬を両手で包んで「おかえりなさい」のキスをするのが日課になっていた。  妊娠が判明してもまだ初期の段階なので殆ど今までと変わらない生活を送る永絆を藍はとても心配した。  疲れて帰宅する藍の為に食事を用意して、お風呂を洗って準備しておくだけでも「そんなことはやるから永絆はゆっくりしていろ」と言う。心配しすぎる藍に何度大丈夫だと言っても砂糖菓子を扱うように接してこられて擽ったい気持ちになる。  それはとても幸せな日々だった。もうこれ以上満たされはしないだろうと思うのに、次の瞬間にはまた溢れる程の幸せを与えられる。藍からの愛情で毎日がキラキラと優しい輝きに包まれていた。  そんな毎日を玄関のチャイムの音が水を差した。  藍の仕事が休みの日で、二人でのんびりテレビを見ていた昼下がりだった。 「藍、開けなさい」  玄関の扉の向こう側で耳にした事のある声がした。

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