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第183話

***  真っ白な雪で覆われた土地から元々住んでいた土地に戻ると季節は春になっていた。  いつの間にか、藍と初めて逢った季節は過ぎて、再会した時と同じ季節。  広い庭に植えられた桜の木がヒラヒラと花弁を舞い散らせていくのを見ながら、この一年を振り返りお腹を撫でた。  紫ノ宮に来て直ぐに藍の母親から大歓迎を受けた永絆は緊張と悪阻のせいで数日寝込んでしまった。その間も紫ノ宮で働く使用人達は甲斐甲斐しく永絆の世話をしてくれた。Ωだという差別的な視線も悪口も一切聞くことはなかった。  よく教育されているのも勿論だが、藍が番を迎えた事に紫ノ宮に関わる全ての人間が温かく祝福をした。流石、紫ノ宮の跡継ぎ、偏見など持たず柔軟な考えの持ち主だと称賛される程だ。  それを少し複雑な気持ちで藍も永絆も受け止めた。自分達が一年の間、真剣に悩み苦しんで駆け落ち紛いの生活をしていた事を誰も知らない。藍が選んだから藍に従う、といった周りの反応に困惑した。  逆にそれだけ藍が紫ノ宮の跡継ぎとして期待されているという証拠でもあり、永絆もそれについては素直に嬉しく思った。  体調も回復して改めて藍の両親と今後について話し合ったのは昨日。既に藍は大学へ復学し、跡継ぎとしての勉強も進めていた。  寝込んでいる時に藍の両親に婚姻届の必要な箇所にサインを貰い、藍が直接、役所へ提出しに行った。苗字が変わった事に実感は全くなく、籍を入れた事もまだ信じられない。実は嘘でした、と言われてもすんなり納得してしまいそうだ。

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