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第184話

 地に足がついていない。永絆の心境はまさにそれだった。  今までとは全く違う世界で暮らし始めて、紫ノ宮の名前の偉大さを痛感する。永絆の中の藍のイメージはは紫ノ宮の跡継ぎという印象よりも、永絆を手に入れる為なら犯罪紛いの事も平気でやってしまう無鉄砲な印象の方が強い。  それは今もそんなに変わりはしないけれど、二人で居る時の藍と、沢山の人に囲まれている藍とでは別人を見ている気になる。不安とは少し違う。どちらの藍も同じで、むしろ二人で居る時の藍が特別なのだ。  自分はとても恵まれていて、贅沢をさせてもらっている。藍の子供を産む事で周りからは期待の目を向けられていて、たまにそれが窮屈でプレッシャーになったりもする。それでも藍と一緒なら些細なことだ。 「こんな所にいた」  大きな紙袋を抱えてやって来たのは茉莉花だった。  藍との婚約が白紙になって一番焦ったのは茉莉花の両親やそれを取り巻く環境の筈なのに、茉莉花は暇を見つけてはやって来て永絆とお喋りを楽しんでいた。  きつい言葉をぶつけられた事すら今では懐かしい。 「ねえねえ、もう性別は分かったの? 実はね、服を買いに行ったら可愛い服があってつい買っちゃったの」  そう言って抱えていた紙袋から出してきたのは赤ちゃん用の小さな可愛らしい服。 「茉莉花さん、お気持ちは有り難いんですけど……買い過ぎです」  来る度に毎回、赤ちゃん用の服やおもちゃを大量に買ってくる茉莉花のおかげで藍と永絆が使っている部屋は溢れかえっている。そろそろ別の部屋を用意した方がいいかもしれないと本気で思う。

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