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第186話
「永絆」
庭先のガーデンテーブルに座って茉莉花と服を見ていると、今度は藤が紙袋を抱えていつもの穏やかな笑顔でやって来た。
彼も時間さえあれば永絆の体調を心配して会いに来てくれる。
番になろうと言われたのに返事もせずに姿を消した永絆を責めもせず、藍と番になった事を喜んでくれた藤には感謝してもしきれない。
「藤、いらっしゃい」
藤が来ると藍はいつも焼きもちを妬いて不機嫌になるけれど、藤はそれを分かっていてわざと来ているようだ。せめてもの仕返しなのかもしれない。勿論、そのくらいで喧嘩をするような事はないのだが。
「はい、これ」
紙袋からは沢山の絵本と姓名判断の本。茉莉花と同様、藤も来る度に見つけた本を持ってくる。本棚には収まりきらない数の絵本が並び、子供の名前の決め方事典も増えてきた。
「絵本は嬉しいけど……名前の本はもういらないよ」
たまに藍が名前事典を何冊も開きながら紙に候補の名前を書いているのを見かける。本の数だけ名前の候補が増えている現状だ。
「でも、ほら、名前って大切だよ!? なんなら代わりに付けたいくらいだよ!」
「気持ちだけ受け取っておくね」
この二人は本人達より子供が産まれてくることを楽しみにしているんじゃないかとたまに思う。あんなに迷惑を掛けて利用した藤も、本来なら藍と結婚する筈だった茉莉花も、番になった事や子供が出来たことを怒りもせず、ただ心の底から喜んでくれた。
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