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第19話
空き教室と準備室の扉を挟んで、その扉に背を預ける。
準備室は長いこと使われていない為ホコリが棚に積もり、少しかび臭い。
ここの教室は大学の敷地内の隅に建てられた物で数年前に新しくより利用しやすい場所に建て直されたので、今では一部のサークルが活動する為に一階の教室を使用しているくらいだ。
二階の端にあるこの教室と準備室は滅多に人が来ない。この場所を見つけてきた藍が永絆を呼んで、お互いが空いた時間に扉越しに一緒に過ごす様になった。
壁一枚隔てる事で番特有の匂いを藍から感じるのを防げると知ったのは偶然だった。
ある日、講義を終えて次の場所に移動する為に教室を出るとたまたまそこに藍が通りがかり、慌てた永絆は教室の扉を急いで閉めた。
扉のすぐそこに藍がいる。藍も気が付いて動揺していた。こんな近くにいた事をお互い全く気が付かなかったからだ。
ヒートを起こすと怯えた永絆だが、身体は疼く事がなく正常なままだった。
やがて藍がその場を離れ、微かにその匂いが残る。
もしかしたら壁一枚隔てたら大丈夫なのではないかと考えた藍がヒートを起こしても人があまり居なくて幾分安全なこの場所に永絆を呼んで、準備室と教室に別れて扉越しに近付いてみた。
たった少しの厚さの向こうに恋しい番がいる。
ヒートを起こすことなく普通の状態でその気配を感じる事が出来た。
それが永絆にとってどれほど嬉しかった事か、藍は知らない。それはホコリやかび臭さなんて気にならないくらい幸せな事だった。
「中根の検査、受けに行かないのか?」
お互いの講義が空いた時間を利用して、先に永絆が準備室で待つ。少し時間を遅らせてから藍が教室に来る。
扉の前で藍が座る音を聞くのはこれで三回目。誰にも秘密の逢瀬は永絆の胸を簡単にときめかせた。
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