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第20話
「受けても藍に近付けないでしょ? それならモルモットになんかされたくないよ」
只でさえΩは奇異な目で見られる存在。好きでΩに産まれた訳ではないのにこれ以上晒し者にはされたくない。
「永絆の体質に合ったちゃんとした抑制剤、作って貰えるかもしれないのに?」
「今飲んでるやつで大丈夫だよ。発情期になったら大学は休むし」
あれから一度、発情期が来た。中根に貰った薬はそれまで服用していた抑制剤よりは効果があった。それでも藍に出逢う前の体質に戻る事はなく、発情期には藍《つがい》を求めて干枯らびそうだった。
きっとどんな薬でも効かないだろうと永絆は思っていた。藍が番にならない限り、この体質は変わらないと。
「心配しなくても構内で藍に近付いたりしないよ」
「オレは扉なしで永絆と話がしたいだけなんだけど……」
顔を見て話せたらどれだけいいか。それは何度も考えた。けれど扉がなければヒートでお互い理性を失うだけで話なんて出来ずに欲望だけをぶつけ合って終わりだ。
そんな事は望んでいないし、それは藍も同じだろう。
万が一、それで藍が項を噛んでしまったら番が成立してしまう。
藍が番う事を望んでいないのに、この扉を開けることは出来ない。
「薬なんて簡単には作れないでしょ。副作用だってキツいし。オレはこのままでいいよ」
これ以上、近付けば後戻り出来なくなる。
いつか紫之宮を継いでいなくなってしまう藍を諦める時がやって来る。その時は今日かもしれない。いつ来るか分からない。
それならこの扉一枚隔てた距離から出てはいけない。一度でも出てしまえば、本能のまま藍に縋り付いて離れたくなくなるから。
泥沼にハマるのは嫌だ。誰も幸せになれないのだから。
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