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第49話
ズキリと項に痛みが走る。思わず手で触れると薄らと血が滲んでいた。
「藍……藍っ……」
その血を見て我慢していた涙が溢れ出した。
心が痛い。このまま死んでしまうかのような切り刻まれる痛みだ。
「藍……」
上手く話せただろうか。藍は納得してくれただろうか。
藍がこのまま諦めずに自分の事を細かく調べたらさっき話した事も意味がなくなってしまう。
もっと残酷な話をすれば良かったのかもしれない。
不特定多数に犯されて酷い目にあったと言えば、藍はそんな番はいらないと言ったかもしれない。
だけど覚悟を決めたと言っていた。どんな過去があってもいいと。だから、ああ言うしかなかった。
藍のものにはなれない。他の人がいるから。そう約束したから。
「嘘つきで、ごめんね……」
本当はもっと早くに伝えるつもりだった。近付く事さえ出来ていれば、こんなに焦がれる前に伝える筈だった。
触れる事が出来ない事実が藍への思いを余計に膨らませて歯止めがきかなくなった。これ以上は好きになっちゃいけないのに。
「ごめん……藍……」
貴方と番いたかった。
ただ一言、そう言えたならどんなに幸せだっただろう。
もう、その言葉を言うことは二度とないけれど……。
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