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第1話

輝かしい未来を予感させる、きらめく春の日差し。 そして空には薄い雲がたなびいていた。 卒業式の後の高校最後のHR。 校庭には生徒たちを待つ保護者の姿があった。 S特クラスの教室は、机も椅子も自然素材をふんだんに使った職人仕上げで、長時間でも勉強に専念できる、贅沢なしつらえだ。 この教室に全員が集まるのはおそらくこれが最後。 生徒数は25名。全員三年間S特クラスの席を守り続けた、文武両道に秀でた男子生徒たちだ。 担任の早川の言葉が終わると、多くの生徒が目を潤ませ、号泣するものもいた。 最後の起立にザッと椅子の音が響き、すべての者の心を震わせる。 級長は「礼」の号令に万感の思いを込めた。 皆が顔を上げる、そのタイミングを見計らったように一人の生徒が教室に入ってきた。 静まり返った教室に足音が響く。 幾何学模様の彫刻を施された教壇に当たり前のようについて、手にしていた上品な玉ひも付き封筒を置くと、少年は美しく礼をした。 「先輩方、卒業おめでとうございます」 全生徒が当たり前のように丁寧な礼を返す。 クセのない真っ直ぐな黒髪に華奢な体。少年らしい利発な顔立ちには親しみやすい可愛らしさがある。 一年の剛刀(たけば)結備(ゆい)は学年随一の秀才で、常人の枠にとらわれない人物として認識されていた。 「進学率100%。輝かしき未来への旅立ち。僕も自分のことのように大変誇らしく思っています」 さも当然のように語りはじめた一年生に、担任の早川は一歩引いて教壇を譲った。 教壇の下級生に対し、生徒たちは頬を緩ませる者、顔を曇らせる者、さまざまな反応を見せる。 「僕は高校入学の直前に、ため池などの水を抜くテレビ番組を拝見しました。自然、そして生命について考えさせられる、素晴らしい番組です。そして池の水を抜いたその後がどう変わったのか気にかかり、独自に調べた結果、生物多様性の維持、生態系の回復に素晴らしい効果があると知り、非常に感動いたしました」 子供っぽさの残る口調で語る結備の瞳は陽光のごとくキラキラと輝いていた。 「そして僕も同じように地球、そしてこの日本の生態系の一員として、豊かな自然を守り、人間の生物としての本能を高めたいと考えるに至ったのです。ここにいらっしゃる一部の先輩には僕の考えをお伝えし、賛同をいただいた上で活動にご協力いただきました。けれど、初耳である先輩もいらっしゃると思います。そこは……大変申し訳ありませんが、各人の性格をかんがみてお伝えせずに協力いただきました」 結備は教壇から皆と目を合わせて微笑んだ。 「S特クラスの先輩方のご協力により、僕の『ぜんぶ抜く大作戦』は見事目標を達成し、のちの経過観察も含め、その成果は進学率100%というわかりやすい数字では表せないほど満足のいくものとなりました」 感極まったように結備の目のふちが赤く染まった。 「感謝の気持ちを込め、お一人お一人に送辞をしたためて参りました。皆さまとなると時間がかかりすぎますので、代表として二名の先輩への送辞を読み上げさせていただきます」 少年は若木のように背を伸ばすと、たま紐付き封筒から白い封筒の束を取り出し、さらにその一つから紙を広げた。

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