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第2話:送辞 細野 未知瑠(みちる) 様

未知瑠先輩と出会ったのは入学してすぐ、暖かな日差しに心までふわりと花開きそうな日のことでしたね。 知性溢れる目元も涼しく、口元のホクロと厚い下唇が印象的で、一目で情に厚い人物であると知れました。 そして僕が先輩に『ぜんぶ抜く大作戦』による自然の回復のお話をしたのは、数日後の新入生歓迎遠足でのこと。 春霞の淡い空のもと、5キロを踏破し公園に着く頃には、恥ずかしいことに僕の体力は尽きておりました。 文武両道、勇壮活発な同級生たちの楽しそうな様子を尻目に、僕は芝生に寝転び若草の香りに癒され、体力の回復を図るしかありませんでした。 そんな時に未知瑠先輩は、体力不足を嘆く僕を気遣い声をかけてくださいました。 僕を見下ろす先輩は輝く若葉よりもキラキラと眩しかったです。 そして、休むよりも動いた方がいいと助言し、共に行動してくださった先輩に、本当に励まされました。 含蓄(がんちく)ある先輩との会話は非常に楽しく、知的好奇心を刺激されました。 信用できる人物だと感じた未知瑠先輩に、僕の『ぜんぶ抜く大作戦』を話すまで、そう時間はかからなかったと記憶しています。 会話を楽しみながら足の向くままたどり着いた、公園裏手の山道そばのやぶ。 探検気分でそこに分け入ると、おそらく重機かなにかが置かれていた跡なのでしょう、草が倒れて小さく開けた場所がありましたね。 そこが記念すべき、第一回『ぜんぶ抜く大作戦』の会場となったのです。 草むらに座る表情も頼もしい未知瑠先輩が協力してくださるなら、どんな結果になろうとも、得るものがあるはずだと僕は確信しておりました。 初めてのことですので、手順がよくわからず、まずはしっかり対象を観察するところから始めました。 草原を思わせる緑のジャージを引いて中を拝見すると、先輩のチューリップが太陽に向かって元気一杯に伸びていました。 手もふれずに揺れるチューリップに、生命の息吹を感じます。 春らしい清涼感をもってチューリップを濡らす朝露のごとき雫。 想像よりもしっかり茂った根元の草むら。 僕は感動に打ち震えました。 先輩を頼りにし、どのようにすれば良いかご指導をいただきながら、蜜に誘われる蝶のような心地で僕はそのかたいチューリップにふれました。 いえ、正しくは『ふれようとした』でしたね。 僕の指が温もりを知るより先に、チューリップから勢いよく飛び出した液状の種。 「目にも留まらぬ早技」というものを僕は初めて体験しました。 緑のジャージと春の大地に散った白い液体。 自然の縮図がここにありました。 驚きはこれだけにとどまりません。 僕がしっかり手でふれると、種を飛ばしたばかりのチューリップが『電光石火』という熟語を体現してくださったのです。 飛び散る液体、再び濡れた緑のジャージ。 一拍おいて漏れた「おうっ」という声にも趣がありました。 二度液を飛ばしてもまだ太陽に向かって伸び上がるチューリップを指で弾くと、メトロノームのようにブンブンと大きく揺れます。 僕はそのたくましい生命力にいたく感動し、つい何度何度も先輩のチューリップを弾いてしまいました。 そして濡れたチューリップに添えた僕の手を、上から握った先輩に力強くご指導していただいたことはその後の活動に大いに役立ちました。 僕の「なぜこんなにすぐ出すことができるのですか?」という初歩的な質問に、「早漏だからだよ」と力強く答えくださった男らしい笑顔が、まるで昨日のことのように思い出されます。 初の『ぜんぶ抜く大作戦』はこれで完了、そう思っておりました。 しかし未知瑠先輩は、僕の幼い若芽を太陽の下にさらして口に含み、先端を優しくほぐしてくださいます。 そのあまりの心地よさに、僕はついつい眉目秀麗な顔をつかんで激しく種の継続の手段を模索してしまいました。

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