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第6話 祈り

 センター試験の日はいつも雪だ。  どんよりと立ち込めた分厚い雲に汚れを残してきたような真白な雪が降る。  今年は過去最大の寒波到来らしく、数日前からテレビではそのニュースで持ちきりだ。 「受験生の皆さんは寒波と雪に負けずにがんばってもらいたいですね!」  とのんきに、そして無責任な励ましを繰り返すキャスターの張り付いた笑顔を見て僕はテレビを切った。 「先輩、きっと大丈夫……!」  僕は先輩の口からは志望大学の事を聞けずじまいだった。  おそらくは他の先生達からも、違う大学にしろ。もっと上を、と言われているだろう先輩に、本当はもう知っているくせに僕まで大学名を聞いてどうするんだ。聞いて何を言うんだ、という思いしかなかった。  先輩が志望した大学だって有名な国立で、並大抵の努力では簡単に合格なんてさせてもらえない大学だ。それでもまだ上を目指せと言われ続けるプレッシャーに加担なんてしたくなかったし、先輩がその大学へ託した願いも想いも簡単に聞き出して良いとはどうしても思えなかった。  実のところ、僕は雪島先生の口から先輩の志望校を聞き出してしまった現実にひどく変な気分になったのだ。  二人の間にどんな会話があったのかも、何も知らない。何も知らないくせに、とてつもなく神聖な場所を土足で踏み荒らしてしまったような罪悪感と秘密めいたものを知ってしまった優越感に似た感情に胸が騒つき、あの日の夜はなかなか寝付けなかったのだ。  轟々と吹き荒ぶ風に煽られた雪が矢のような速さで散り狂う。  僕はほんの少しだけ結露して滲んだ窓の向こうを文字通り祈りながら見つめている。  この音が先輩の集中を乱しませんように。この寒さが指先から温度を奪いませんように。    先輩の決めた道が誰にも何にも邪魔される事なく続きますように。  どうか、神様。明日はほんの少しだけ、少しだけで良いから、太陽を。  それは僕の身勝手で無責任なただの祈り。  ただの、祈り――

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