154 / 172

おれなら…

「ラブシーンさ、あれなんで壁ドンにしたいって監督に言ったの…?」 「…ん?んー?」 アルから監督に意見して、しかもそれが演技についてで、しかもしかもそれが採用されるなんてすこし前までは考えられなかった事だ。アルに演技についての知識がなかったから、というのもあるし、何よりアルが仕事のことで自発的に外部の人に何かいうなんて今までなかった。アルは思い出すように空中を見つめ頭をぽりぽりと掻いていた。 「あれはね、おれならそうするなって思った。」 「アルなら?」 改めて聞き返すとアルはうんと頷いた。 「なんかデート?した日に思った。後ろ向きより前向きの方が顔見えるし…あと相手?が面白い顔するし。」 「面白いって…」 仮にも今をときめく女優さんに失礼な話だなって思ったけれど、多分アルのいう「面白い顔」は世間でいう「頰を赤らめた顔」とか「ドキドキした表情」のことを言うんだろう。「絶対に共演者の女の人相手とかで言っちゃだめだからね。」と念をおしつつ、そんなことでなのか…と当時の撮影の様子を思い返した。 「ふーん…」 「………」 歩きながら俯いて考えていた。だからアルがこっちを見てなんだかニヤニヤしているのに気が付かなかった。 「…それに…」 「…?わっ!」 アルが続きを話し始めたので顔を上げると突然ぐいっと体を押された。 こ…こける…!! よろめいてこけるかと思い反射的にぎゅっと目を閉じたがそのまま廊下の壁に背中がぶつかった。そしてドンって音が顔の横あたりでしたと思って恐る恐る目を開けるとすぐそこにアルがいて思わずカァッと顔が熱くなる。昨日散々SNSで女子高生達がされたいと騒いでいた壁ドンだった。アルはニヤッと笑って銀みたいな笑い方だった。 「…それに…杉田さんも好きみたいだし?」 「…ッ!!」 アルは俺の顔を見てふふんと満足そうに笑った。 【ドラマ編 おわり】

ともだちにシェアしよう!