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上々

「二人ともよくやったわ!」 「あ、ありがとうございます。」 「………」 満面の笑みの椿さんが俺とアルにハグをする。ドラマの最終話が放送された翌日、俺とアルは朝から社長室に呼ばれ椿さんから歓迎を受けていた。理由はもちろんアルのラブシーンを含む最終回の視聴率が良く、またラブシーンの評判が上々だったからだ。椿さんの後ろではニコニコした山田さんが右肩あがりのグラフの載ったタブレットを持って立っている。もちろん視聴率に関してはドラマ自体が最終回だったことと、主演の二人の演技による部分が大きいけれどそれにしても喜ばしいことに変わりはない。 俺も放送後にSNSでアルの演技の評判を調べてみたけれどラブシーンに関しては普通以上と言う意見が多かった。 正直壁ドンなんて一昔前…と言うか若干の時代遅れ感があるんじゃ…?と思ってたけどむしろそれが功を奏したなんて… 当然監督にも認められたから放送になったわけではあるんだけど俺自身としては実際に放送を見て、評判を見るまで不安だった。SNS情報によると壁ドン自体もだが、そのシーンでのアルの演技自体にも今まで以上に気持ちが入ってた感じがあってよかったという声が多かった… 実はあのラブシーン、初めから壁ドンが採用されていたのではなく、撮影開始時は当初の予定通りバックハグで撮影がされていた。けれどアルの演技になかなかOKが出ず、そんな時にアルから監督に提案する形で壁ドンを試すことになり、結果採用という流れになった。 「アルも学も、これからもこの調子でよろしくね。」 「は、はい!」 「うん」 相変わらず満面の笑みでご機嫌な椿さんと表情の変わらない山田さんに見送られ社長室を後にする。アルはクアッと欠伸しながらまた背中を丸めたままのそのそと歩いていた。 「…ねえアル?」 「なに?杉田さん…」 アルと並んで歩きながらラブシーンの撮影日から気になっていたことを聞こうと声をかけた。

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