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放送日
………数週間後……
「えっ!?もう8時?アル!!8時!!」
「ん…んぇ?なに…?」
「8時!ドラマ!」
とうとうラブシーンの放映日になった。アルは少し前から番宣の仕事も増え、以前にも増して忙しくしていた。今も忙しさからくる疲れのせいかソファの上でうたた寝をしていたみたいだ。俺の声に驚いて寝ぼけ眼であたりを見回している。
「ほら!ちょっと詰めて!テレビつけて!」
「………」
そして渋々といった感じでソファの端にずれるとぼんやりした視線をテレビに向けた。ドラマはちょうどOPが始まるところだった。アルはそこでやっと思い出したのかあー…と声を漏らした。
「………」
いつもなら自分が出たやつだろとツッコムところだけど今日は黙ってドラマに集中する。アルもいちおう黙ってじーっとテレビを見つめていた。
テレビの中ではヒロインが登場し、相手役の若手人気俳優も登場した。
……ヒロイン役の子…最近人気の女優さんらしいけど…相変わらずかわいいな…主演の俳優さんは人気あるだけあって動作の一つ一つがかっこいいのに悪目立ちしてない…アルも……今日までのところは順調だ…
アルはすでに数回登場してSNSなどの評判から見ても良くも悪くも普通のラインをキープできていた。と言うかアルの性格に合わせたキャラクターだったこともあって「素っぽくていい」と評判だった。
…その素っぽさのためにどれだけ苦労したことか…
横をチラッと見ると正真正銘素のアルがくあっとあくびをしていた。改めてドラマの中で無口でクールな感じのキャラを演じるアルを見る。
……でも…素…っぽいかなぁ…?
そうこうしているうちにアルのラブシーンが近づいてきた。心臓の音が勢いを増す。ドラマは好きなはずだけど正直今日は内容が一つも頭に入ってこなかった。
そしてとうとうヒロインが自分の気持ちに気づいて人気若手俳優もとい意中の人の元へ走り出す。アルにはこの後ヒロインとすれ違いざまに引き止め、行くなと迫る…と言うシーンがあった。アルの最大の見せ場だが少々難しいシーンだ。ちなみにここがラブシーンだと形容されるのは引き止める際に後ろからのバックハグが含まれる予定だったからだ…
……バックハグの予定…だったんだ…
すこし恨めしい気持ちになってアルを睨む。しかしアルが俺の視線に気づくより前に、テレビの中でアルとヒロインがすれ違った。
パッとアルの手が走るヒロインの手首を掴み、自分の方へ引っ張る。そのままヒロインを壁際に追いやると逃げ場を阻むように長い腕をヒロインの両側の壁におき通せんぼした。
……壁ドン…なんだよな…
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