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不安定な身体4※

アマテラスの口付けは蕩けそうなほど気持ちがよくて残酷だった。 浅ましい自分を知られたくなくて抵抗したいのに、いつの間にか身体が快感を求めてしまうのだ。 「ゆき…まだ俺を拒むか」 「ひぁ…んぁっ、やぁ…くるしっ」 肌にかかる熱を感じる。 それがアマテラスから漏れる吐息であると気が付くのに時間はかからなかった。 見下ろす獣のような欲情した瞳、汗ばむ透き通った肌、幸の名前を呼ぶ薄い唇。 この世のものとは思えない程美しく、幸の心を惹き付けた。 受け入れなければならないのに、抵抗ばかりしていた幸は初めてアマテラス顔を見る。 彼もまた苦しそうな顔をしていて、目が合うと微笑を浮かべて大丈夫かと問われた。 アマテラスともなれば、欲求を満たしたいのなら、無理矢理に抱いてしまうことも容易いだろう。 しかし、いくら幸が抵抗しても言葉で拒絶しても、壊れ物を扱うかのように丁寧に触れてくる。 いっそのこと一思いにこの身体を貫いて欲しいと思うのに。 それほど、アマテラスに優しくされるということは、幸にとって辛いことだった。 「ひうっ、ふっ…ふぇっ」 「ゆき……?泣いておるのか?」 「ど、して……優しくするのですかっ」 「すまない、痛かったか!泣くほど嫌であったか…!?」 溢れ出る涙を必死で拭う幸の手を掴み、そっと顔色を伺う。 その言葉に少し考えたあと、幸はふるふると首を振って答えた。 「ちがいますっ、先程お叱りを受けたのにこんなに優しくされたら…申し訳なくて胸が張り裂けそうです。ぼくなんかっ…なんの価値もないのにっ、アマテラスさまにちゃんとお仕えすることもできない……能のない女のなりそこないっ、なのに!この身を捧げて奉仕するだけなのに、まるでご寵愛を頂いているような行為まで…」 最も高貴な雲の上の存在にこんなことをされて困惑したのが一番の感想だったが、これが本来の務めとでも思わなければ、人間という穢れた存在にアマテラスが触れてくる理由が見当たらない、そう思って素直にアマテラスを受け入れようとしたが、先程激昂された。 だが、アマテラスは口調こそ粗野ではあったが、実際は感情のままに無体を働くことなく優しく触れてくるのだ。 本来の務めを果たしていない自分が、まるでアマテラスに寵愛を受けているように感じる今の行為は、罪悪感を増幅させるだけのものでしかなかった。 どのような形ででも、斎王であろうとするが務めもさせてもらえず、もはや斎王()というの存在意義が分からなくなった。 ここに来て斎王としての務めを果たすことだけが、今までの幸の生きる理由でありこの世に存在する理由だったというのに―― 「お前が『これが務めだ』とか吐かして、自分のことを蔑ろにしたから怒ったのだ。俺はそのような役目を強いることはせん。 それに、いくらお前自身とて、幸のことを卑下することは俺が許さんぞ。この俺が認めた斎王だ。お前は立派な斎王なのだ…お前が仕える主人がそう言っておるのだから、間違いなかろう?」 「でも…今まで一度もお勤めをさせて頂だけていません…アマテラスさまのお役に立てておりません…」 「お前はこの家に住み、俺の帰りを待っているだけでよいのだ。何もこれは斎王の仕事ではない。何も特別なことをする必要はないのだ。俺がそれを望んでいるのだからそれでいい」 「…ぼくの、ぼくの生まれてきた理由はアマテラスさまに仕えることなのに…! どうしてぼくの生きる理由をうばうのですか…っ、どうして、どうして…っ?」 「それは違う。幸、お前の生まれてきた意味は、神に愛されることだ。何もしなくていいのだ。ただ、生きているだけで良いのだ」 「愛、される…?」 「ああ、そうだ。先のことは感情的になった俺が悪かった。だが、今から身をもって知るがいい…俺が本当に伝えたかったことを――」 それが始まりの合図だった。

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