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斎王

月日は小川のように緩やかにそして確実に流れ、天皇が亡くなり次の御代(みよ)へと移り変わった。 新たな天皇の即位後、幸はかねてより決まっていた斎王(さいおう)に選ばれた。 本来は男ではなく未婚の皇女または女王が務めることになっているが、500年に1度宮家に降りかかる災いのせいで、幸が選ばれてしまったのだ。 「500年に1度宮家に姫が生まれない時がやってくる。次の御代の斎王は、1番末の彦としなければ、更なる災いが一族に降りかかるだろう───」 この言い伝え通りある時から子どもは男子しか生まれなくなり、未婚の皇女だけが流行り病にかかって亡くなっていった。 斎王になるということは神の元へ嫁ぐという概念があり、貴族の娘が入内(じゅだい)するのと同じ、またはそれ以上の行為だ。 処女ではない者すべてが穢れ。 帝のもとへ入内するのでさえ処女でなければならないのに、ましてや神に仕える身など穢れなき身体であらねばならないのは当然だ。 それを逆手に取ったのか、はたまた流行り病にかかるのをおそれたのか、嫁ぐ者が相次ぐ。 斎王にふさわしい皇女は誰一人としていなくなり、それの影響で権力争いを避けるためすぐに子どもを儲けるのも禁止になるほど深刻な状況に陥る。 そんな背景を知らずに生まれてきたのが有栖川宮 幸(ありすがわのみやゆき)であった。 常日頃から斎王になるのだということを教えられて育ったため、受け入れるしかなく嫌という感情もない。 男なのに女らしい恰好をさせられて、髪も長く伸ばして女性の教養も身に付けさせられたけれど、宮家を守るためなら仕方がない。 斎王に選ばれてからは宮中に定められた場所で過ごした。 翌年の秋には都の外にある野宮(ののみや)というところで、その翌年の9月に伊勢神宮で行われる神嘗祭(かんなめさい)に合わせて出発する日まで体を清め続けた。 神に嫁ぐ、幸はそういう気持ちで出発の日を待っていた。

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