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伊勢神宮
出発の儀式を終え、伊勢に着いたのは6日程後だった。
長い行列を作って決められた休憩所を転々とし、やっと目的地へ辿り着いた時には幸はもうくたくただった。
「やっと着いた…」
かごから降りると、都とは全く雰囲気の違う場所だった。
木が青々と生い茂り、神々が祀られているだけあって空気も違っている気がする。
「幸 様、長旅ご苦労様でございました。お迎えに上がりました。」
子どもの声がしたと思ったけれど、全くそれらしき人物は見当たらずきょろきょろと辺りを見回す。
「ここです、ここ。ここでございますよぅ」
「うわぁっ!!いた!!」
声のする下に目線を下げると、可愛らしい子どもが立っていた。
「驚かせて申し訳ありません。私は斎王 の付き人をさせて頂く、柊 でございます」
「よ、よろしくお願いします」
「至らない点もあるかと思いますが、精一杯務めさせていただきます」
そう言って深々と頭を下げる姿を見て、まだ小さいのにこれほど言葉を知っているのかと感心してしまった。
「あの、どうしてここへ?神嘗祭 の時しかここへは来なくていいはずだよね?」
「それは、幸様が特別だからでございますよ。
これからご案内するところが、これから幸様のお住まいになります。身の回りのお世話はすべてこの柊が致しますので、何なりとお申し付けくださいませ!」
「ありがとう。とても頼もしいよ」
柊の先導でこの神宮の敷地内のどこかにあるらしい住まいを目指す。
橋を渡り、玉砂利 の心地よい音を聞きながら進んで行くと、立派な木々が立ち並びやはりここは神聖な場所だという実感が湧く。
「どれも大きな樹だな…樹齢何百年と経つんだろうね」
「はい、これらがあることでこの神宮は神聖な場所であり続けられるのです」
「ねぇ、あの木のてっぺんにあるのは…?反物…?」
「どこですか?」
「あれ?やっぱり何でもない。気のせいだったみたい」
一際大きな樹に紅い反物が引っかかっているのが見えた。
不思議に思い、柊を呼び止めるため目線を外してまたその樹を見たときには何もなかった。
あたりにもその紅いものが飛んでいるようすはなく、疑問だけが残る。
柊には何も見えていない様子だったのであまり気に留めないことにした。
(あれは何だったんだろう……まさか、ね…)
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