作者: 石月煤子

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冬オマケ②

【みーんな残業しているよ~♪】 ■弁護士事務所の場合 「あーこいつ嫌い、嫌い、きらーい!!」 蜩が壊れた。 次から次に立て続く相談、訴訟、よって書類作成で生じる残業に頭ぱっかーん状態、に、迫っているようだ。 「この書記官A、自分が楽したいからとっとと和解しろって、そればっか、書類手続き手前等で済ませろってのが見え見えで、腹立つー」 「お疲れ様です、蜩さん」 「相手もさー、こんな大量な準備書面送りつけてきやがって、荷物になるんだよなー、かさばるんだよねー、ファイリングする身にもなれー」 「お疲れ様です」 書類作成を手伝うシンジ、よって彼も残業中であった。 スタバで買ってきたインスタントコーヒーを淹れ、蜩のデスクに置いてやる。 それまでパソコンとにらめっこしていた蜩はまじまじとデキる部下を見上げた。 「シンジー、今だけ惚れてもいー?」 「勘弁してください」 「じゃ、ちょっと気分転換にケツ触らせて?」 「嫌です、パワハラで訴えますよ、あ、ちょっと」 「……凪君みたいに柔らかくない」 このパワハラセクハラ上司、あと十分したらもう帰ろう。 ■闇金事務所の場合 「これ以上返済期日過ぎやがったらてめぇんち行って飼い猫も金魚もミニトマトも根こそぎ奪ってやっからな、嫌なら明日中に利息分用意しとけ!! ……あー腹へった」 「拾った猫も瀕死の出目金もプランターも金にならねぇな」 とっちらかったデスクに通話が終了した携帯を放り投げた六華、イスから転げ落ちそうなくらい大胆に背伸びをし、自分の席で煙草を吸っていた黒埼は灰皿に灰を落とす。 綾人はとっくの昔に(三時間ほど前に)退社しており、黒埼兄弟だけが残った雑然たる事務所、まるで殺伐さに拍車がかかるかのような。 「兄貴ー、炙ったサーモン食いたい、国産のお肉でもいい! にっくにっくー!」 「俺は帰れば飯がある」 Σ( ̄ロ ̄lll) il||li(つд-。)il||li 「六華、それくらいで泣くんじゃねぇ、しかも毎回」 (_ _|||) メシィ… (`_´)y-~ … 「そこの焼き鳥でも食ってくか」 ☆★☆ヽ(*´Д`*)ノ★☆★ 「十分でな」 「十分でもじゅーぶん!! 二十本いける!! 兄貴と飯ぃぃ!! ばんごはーん!! ディナぁぁぁ!!」 ヾ(@>▽<@)(`´〆)y-~~~   ↑ ※鼻ピのパツキンです 【冬の雨と黒埼と綾人】 雨に溺れて死んでしまいたい。 ずっと昔、綾人はそんな幻想めいた思いを抱いたことがあった。 「降ってきたな」 「私、折り畳み傘持ってます」 遅めの夕食を済ませた店を出、小雨降り頻る夜の空を一瞬仰いだ黒埼、隣に立つ綾人を見下ろした。 「さすが佐倉さんだ、頼りになる」 綾人は折り畳み傘を広げると黒埼へ差し出した。 「どうぞ、黒埼さん」 「その傘、佐倉さんの趣味か?」 「え?  あ、これは六華さんから頂いたもので、六華さんは女性の友達から頂いたものだと」 なかなかケバいピンク地に花柄、確かに明らかに女性物だった。 「あ、やっぱりちょっと小さいですね」 柄には全く気にも止めずにサイズを案じる綾人、そんな彼に黒埼は小さく笑った。 「あ」 綾人の片手越しに柄を握り、寒さを少しでも和らげてやるためその肩を抱き、降り頻る冷えた雨の元へ。 すれ違う通行人は二度見したい欲求に駆られるものの、さも堅気じゃない然とした黒埼の出で立ちやら目つきに気圧されて懸命にスルーを決め込む。 女物の傘の下、はみ出した肩が濡れていく。 でも嫌じゃない、不快じゃない。 「こんな雨の夜も悪くねぇな」 自分が丁度胸に抱いていた思いを口にした黒埼に、綾人は、そっと頷いた。 「こんな雨の夜に貴方と溺れ死んだら天国に行けそうですね」

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