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ハロウィンオマケ①/前世が皇子君の憂鬱

■某アニメ(猛烈に古い)のパロ要素が少々あります 「ずっと君を探していたんだよ?」 朝の通学路、特に何かに警戒するでもなくのほほんと登校していた凪はぎょっとした。 いきなり目の前に立ち塞がった男。 ダークスーツで、特にセットされていない黒髪、鋭利に切れ込む眦。 明らかに一般ピーポーではない。 なに、この人、借金取り……? お父さん、俺とお母さんに黙ってやばいところからお金借りてた、とか……? 通学鞄を抱きしめてぶるぶる震え上がる凪に男は笑いかける。 「俺のこと思い出さない、皇子?」 そう。 凪の前世は皇子様だった。 しかも魔界の。 魔物とかクリーチャーがうようよいる、人の世界とは別の世界。 千年前、皇子様は一つの運命によって死に抱かれた。 千年後、人の世界に転生するというもう一つの運命と共に。 その夜。 本日の業務を終えた弁護士事務所なる場所で凪は三人の見知らぬ他人に囲まれていた。 「そんなにすぐ信じられる話ではないよね、君が戸惑うのも無理はないよ、もちろん俺達を疑るのも」 比較的話が通じそうなあっさり塩顔男子の彼は応接テーブルのそばに佇んでいる。 「へぇ。意外と面影あんだなぁ。目元とか目つきとか眼差しとかさぁ」 一番年齢が近そうな肉食系男子風の彼は向かい側のイスにお行儀悪く座っている。 凪が最も問題視しているのは今朝遭遇した、隣に座って馴れ馴れしく肩に腕を回してくる、性質の悪そうなオトナ男子であって。 「匂いも肌の質感もきらきら具合も変わってないねぇ、千年前と同じ、たまんないなぁ」 耳元で悪戯にそんな台詞を吹き込まれて困ってしまう。 今朝の格好と違い、ストライプ柄のビジネススーツにネクタイをちゃんと締め、髪はさっと撫でつけ、眼鏡をかけたこの男はこの事務所の弁護士本人だという。 確かに弁護士バッチをつけているし、塩顔男子の丁寧な説明もあって、凪は彼らがちゃんとした社会的地位にあることを認めはした。 だけど前世とか、生まれ変わりとか魔界とか、マンガじみた話を信じるのはとても難しかった。 だって俺、普通の人間だもん。 今まで自分を特別に思ったことなんて一度もないもん。 これまでの人生において中二病を発症しなかった凪はやはり到底受け入れられないでいる。 塩顔男子と肉食系男子風は顔を見合わせ、残る一人はふぅっとため息をついた。 「しょうがないなぁ、じゃあ、奥の手を使っちゃおうかな」 オトナ男子が言うとどうしても性的なものに聞こえてしまう。 が、怯える凪の予想を裏切って彼は立ち上がると隣から離れた。 向かい側に座っていた肉食系も塩顔もその後に続く。 「俺達の真の姿、見せてあげるよ、皇子?」 光り輝く街の遥か彼方で月が群雲に呑まれた。 外灯の届かない隅の暗闇で人と異なるもの達の歌声が祈りのように捧げられる。 人には聞こえない、君主の再来を称える、祝福の遠吠え。 「……うそ……」 目の前で一瞬にして変貌を遂げた三人に凪は目を見開かせる。 「ごめんね、びっくりしたよね」 かつて人の世界から魔界に引っ越した人造人間のシンジはボロボロの服を纏い、その下の皮膚に散らばる継ぎ接ぎを隠すように包帯をぐるぐる巻いていた。 両目と口を除いて顔にも巻かれている。 「ぐるる、この姿になると暴れ出したくなって困んだよな」 狼男の六華は長めの髪の狭間から獣耳を生やし、顔は人型のままに鋭い牙を覗かせ、ボーダー柄がお茶目な囚人服を纏い、もふもふでありながら鈎爪伸ばす両手を懐かしそうに眺めている。 「黒埼君の言ってるコトわっかるなぁ、俺も吸いたくなっちゃう」 吸血鬼の蜩は古典的ヴァンパイア衣装で全身漆黒にキメキメ、シルクハットまでかぶり、フェロモンだだ漏れな仕草でお決まりの乱杭歯を舌先でゆっくりなぞった。 「す……ごい、みんなすごいです、かっこいい!」 「だろぉ? 特殊メイク顔負けじゃね? な、もっと褒めろや」 「かっこいい!!!!」 「皇子にやめなよ、黒埼君」 「いやぁ、でもポチ皇子が信じてくれてよかったよかった」 「……え?」 「そうですね、これでポチ皇子が怖がったらどうしようかと思いましたけど」 「ポチ皇子、な、もっと褒めろって」 な、何、さっきからポチポチって……。 その、千年前の、魔界の皇子様が……まさか……そんなワンコみたいな名前だったの? 「「「ポチ皇子、これからは我々がお守りします」」」 別に守られる必要なんてどこにもないし、俺、やっぱり普通の高校生だし。 ていうかポチ皇子とか、完全バカにされてるとしか思えないです……。 畏まって深々と跪いた三人に凪は完全萎縮し、ちらっと、この面子で焼肉食べに行ったら楽しそうだなぁ、なんて現状逃避な妄想をぼんやり膨らませるのだった。

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