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闇金事務所へようこそ-1

紫煙で煙る貸金業事務所。 真昼だというのに深夜のような気だるさが漂っている。 「ごちそうさまでした」 そんな気だるさなどどこ吹く風で、手作りのお弁当をデスクで完食した佐倉綾人は律儀に一人合掌した。 綾人は今、事務員としてここで働いている。 来客応対や顧客データの管理、門外不出で入手困難なはずの個人情報を日々パソコンに打ち込んでいる。 真面目な綾人は何ら疑問に思うでもなく正に無心で従事していた。 そんな綾人の雇用主は現在革張りのソファで仰向けになって昼寝していた。 正面のテーブルには綾人と色違いのお弁当ケースが空となって置かれている。 綾人は今、この男と一緒に暮らしている。 開けっ放しになっていたケースの蓋を締め、自分のケースと共に仕舞うと、綾人は再び雇用主の黒埼が眠るソファ前までやってきた。 本人は寝るつもりなどなかったのか。 かけたままのサングラスが鼻先にずれ落ちている。 目を瞑っていると普段の鋭さが少し和らいで実は睫毛が長いということが判明する。 綾人の視線の先でおもむろにその瞼が持ち上がった。 「ああ……寝てたのか」 ダークスーツという黒一色の黒埼は、まるで黒豹さながらにのっそり身を起こし、気だるそうに節々の関節を鳴らした。 「お疲れのようですね」 「そうだな、昨日はオヤジの歓楽街巡りに付き合わされちまったから」 「お父様、元気でいらしたんですか?」 「その親父じゃないんだが、まぁ、キャバ嬢全員にお触りするくらい元気ではあったな」 首をコキコキ鳴らす黒埼を眺めて綾人は提案する。 「黒埼さん、もしよければ肩を揉みましょうか」 ソファの背もたれに回った綾人は黒埼の肩を五分ほど揉んでやった。 頼り甲斐のある逞しい体から手が離れると、黒埼は振り返り、礼を告げる。 「どうも。あんた、なかなかうまいんだな、佐倉さん?」 「以前、中華料理店で皿洗いのバイトをしていた時に。料理人さん達の肩揉みを少しばかり」 「へぇ。あんた本当に色んなことしたんだな」 「清掃会社でバイトしていた時も古参の方達に」 「おばちゃん連中か」 綾人は時計を見、一時まで残り五分だというのを知ると、午後の業務を開始させるためデスクに戻ろうとした。 その手首をぱしっと掴んだ黒埼。 「今度は俺がしてやる」

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