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第3話

 (ツー)は言った。 「楽しみなんじゃね? あと三ヶ月で決まるんだから、おとなしく待ってりゃいいのにさ」 「……せっかちな人なんだな。まあ、気持ちはわかるが」  (フォウ)たちは、ヴェルトマー公爵の息子「ミハエル・ヴェルトマー」のクローンであるらしい。  病気で亡くなった息子の遺伝子を研究所に提供する代わりに、最新のクローン技術で息子を蘇らせようとしたのだそうだ。今度は病気に負けない丈夫な息子が欲しいと希望しているとか。 (でも、クローン技術って死者を蘇らせることじゃないんだよな……)  クローンの定義は、「全く同じ遺伝子を持った別の個体」である。  世間では、その人と全く同じ人間が次々に生まれてくる……というイメージを持たれがちだが、コピー人間じゃあるまいし、全く同じ人間がいきなりポンと出てくるはずがないだろう。  ゲノム学園で言うクローン技術とは、受精卵に外部から電気的な刺激を加え、強制的に細胞分裂を促して八分割すること。わかりやすく言うなら、一卵性の八つ子だ。  それをゲノム学園で十五歳まで育て、無事卒業できた個体を希望する親元に引き渡すのである。  その親というのが今噂になっていたヴェルトマー公爵で、(フォウ)たちはその息子の「ミハエル・ヴェルトマー」になるそうだ。  もちろん、無事に卒業できれば……の話だが。 (卒業試験まで、あと三ヶ月か……)  卒業できるのは1~7の一人だけ、という話だけは聞いている。  けれど、どんな試験が行われるかについては、誰に聞いても教えてくれなかった。筆記試験なのか、実技試験なのか、それすらもわからない。  (フォウ)はプログラミングは得意だが、その他の科目についてはあまり自信がなかった。ベグニオン帝国史や、貴族に必要な教養(絵画やダンスとか)に関しても平均的である。 (卒業できそうにないなあ、俺……)  卒業できなかったら、ここの職員として働くことになるんだろうか。だとしたら、一生外には出られそうにない。それは……なんかちょっと嫌だ。 「はあ……」  なんとなく寮に戻る気になれなくて、(フォウ)は夜の町に出た。本当は夜十時以降に外に出てはいけない決まりになっているのだが、少しくらいなら大丈夫だろう。

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