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第2話

 ベグニオン帝国の地下には、遺伝子研究所という施設が広がっている。  そこでは国内外から集められた数万種類の生物が飼育されており、遺伝子に関する様々な研究が行われていた。  ひとつの町のように広い施設内は分野によっていくつかのセクターに分かれており、「セクター(ワン)」では植物を、「セクター(ツー)」では陸上動物を、「セクター(スリー)」では海洋生物を……といった具合に、それぞれの専門区画で厳重に管理されている。  機密保持の観点から関係者以外の立ち入りが固く禁じられていて、外出することも滅多に許されない。  関係者は研究所内にある専用の居住区で生活し、中にはそこで一生を終える者もいた。許可なく外出しようとした者は厳罰に処せられ、最悪の場合、射殺されることもあった。  そんな施設内で、最も警備が厳重な区画があった。 「セクター(ゼロ)」――データ上には存在しない、秘密の区画である。四方を五〇メートル以上の高い壁で囲まれていて、人の出入りが厳しく制限されていた。  研究所でもトップシークレットにあたるセクター(ゼロ)では、主にクローン人間の研究と教育が行われている。ここで生まれたクローンたちはセクター内にある養成所で教育され、厳しい卒業試験をクリアして初めて普通の人間として認められるのだ。  ただし、クローンたちは卒業直前までどんな試験が行われるか一切知らされない。そのため、十五歳までは普通の中高生と同じように、普通の生活を謳歌していた。  その風潮から、関係者の間では「セクター(ゼロ)」はこうも呼ばれている。 「全寮制のゲノム学園」――と。 *** 「なあ、聞いたか? あのおっさん、また様子を見に来てたらしいぜ」  (ツー)が、少々小馬鹿にしたような顔で言った。彼は噂好きで、やや斜に構えた性格をしている。 「『息子の様子はどうだ?』って、職員に迫ってたんだって。関係者以外立ち入り禁止なのに、中に踏み込もうとして警備員に止められてたってよ」 「……ヴェルトマー公爵だったか? そんなに息子の仕上がりが楽しみなのか」  (ツー)に答えている(ファイブ)は、反対に少し寡黙な性格をしている。  同じ遺伝子を持っているのにここまで性格に差が出るのも珍しいな、と(フォウ)は思った。

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