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第2話
いつも笑いあっていた。あいつといればなにもかもが楽しくて。悲しいことも悔しいことも、この樹の下であいつに話せば全部どうってことないことのように思えた。最後には必ず笑って「よし、頑張るか」って気持ちになれた。
今年の桜はそんな俺たちを、まるで追い出すかのようにソッコーで花を咲かせ、ハラハラと花びらを落として門出の日を演出している。
答えを出せぬまま向かった樹の下に、あいつの背中が見えた。
「よ」
声をかければ肩がすこし震える。あいつは振り向かない。
「卒業、しちゃったな」
うつむいて足元の土をザリザリとこする仕草で黙ったままだ。
「なに? お前ってば、泣いてんの?」
無言のあいつが振り向いた瞬間、風が吹いた。
風に乗った花びらは、あいつの肩や髪をサラサラ撫でて流れていく。まるで思い出のカケラが散っていくような錯覚に、初めて卒業を意識させられた胸がキュッと鳴る。
「泣いてねぇし」
不自然に上げられた口角の上。頬に張りついた一枚の薄紅色は、涙のあとを隠してやろうとしたのか。それとも「気づけよ」と主張したつもりなのか。
「嘘つけ。泣いたくせに」
なみだ型の花びらを指させば、桜に負けないほど染まった頬をゴシゴシこする。
「残念。反対側だ」
「……ぅ! こ、これは汗だ。三年分の思い出を駆け足で振り返った汗だ」
手の甲でぬぐわれて、花びらはあいつの足元へヒラリと落ちた。それを見つめる伏せたまつ毛。ギュッと噛み締めた唇。やわらかなカーブを描く頬。
さっきとは別の、自分でも知らなかった胸の奥のほうが、キュッと音をたてた。
ああそうか、悩んだ時点で答えは出てた。わからなかったんじゃない。認めるのが怖かったんだ。友情だと言い切れなかった、この気持ちを。
「遠距離恋愛だぞ。浮気すんなよ」
手を伸ばし、俺より低い位置から見つめる瞳を抱き締めた。唇を寄せてささやいた耳元が、みるみる赤く染まっていく。ゆっくりと背中に回された手のひらが、もう着ることのない制服をギュッとつかんで震えていた。
俺たちの肩に髪に、桜はヒラヒラと降り積もる。これから増えていく、新しい思い出のように。
【おしまい】
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