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春祭りのお手伝い 2
先輩の神社から電車に乗って稲荷神社に帰ると、社務所にはしれっとした顔で倫宮司が座っていた。
「ちょっと宮司!
見に来るなら来るって言って下さいよ!
知らなかったから驚いて音はずしちゃったじゃないですか!」
怒っている僕を、倫宮司は微笑ましいものでも見るように、にこにこと笑いながら出迎えた。
「いえ、実は今朝、お掃除にみえた方々に中芝くんは別の神社へ笛を吹きに行っているとお話ししたら、みなさん見たかったとおっしゃいましてね。
それならと、急きょ私が行って動画を撮ってくることになったのですよ。
まあ、私も見たかったからというのもありますが」
「それにしたって、日曜日に神社を空けてまで来なくても……」
「まあ、新年度のご祈祷もひと段落していてご祈祷依頼もなかったそうですから、問題ありませんよ。
タロくん1人で忙しい思いをさせてしまったのは申し訳なかったですが、タロくんも拓也の動画を見て喜んでいましたから」
そんなふうに言われると、さすがにもう僕も言い返す言葉が見つからなかった。
実際、いつまでも怒っていても仕方がないので、気を取り直して倫宮司が今日撮影した動画を見せてもらうことにする。
スマホなので録画時間に限りがあるせいか、行列と舞殿での巫女舞の奉納の場面しか映っていない。
巫女舞の方は問題はなかったが、行列の方は僕が音を外しているのがばっちり録音されていて恥ずかしかった。
「あちらの神社はなかなかいい神社ですね。
氏子の方々に親しまれて大事にされているのが、神社の雰囲気から伝わってきましたよ。
お祭りの方も参列されている皆さんが笑顔で、よいお祭りでした」
「宮司がそういうふうに言うと真実味がありますね。
あとであちらの宮司にも伝えておきます。
あ、そういえば僕、今日直会の席であちらの宮司に、お酒が強くなったんじゃないかって言われたんですよ。
確かに今日は結構飲んだのにあまり酔ってないので、強くなったような気がします。
もしかしたら、時々宮司の晩酌に付き合ってるからですかね?」
僕がそう言うと、倫宮司はなんとなく複雑な顔つきになった。
「あー、そうですか。
拓也はそっちに出ましたか……」
「え? どういう意味ですか?」
倫宮司の妙な言い方に疑問を感じた僕が聞き返すと、宮司は参拝者がこちらに来ていないことを確認してから小声で答えた。
「実はですね、母や私のように神通力を持つ者の体液を摂取していると、普通の生き物でも少しだけ神通力を得ることがあるんですよ。
タロくんなんかは、子犬の時に母の母乳を飲んだことで、普通の犬よりも賢くなって体も丈夫になったようですよ」
「へぇー、そうなんですか。
ん? けど僕は別に宮司の体液を飲んだりはしてないですよね?」
「確かに飲んではいませんが、摂取はしているでしょう?
毎晩、かなり大量に」
倫宮司の言葉に僕は首をひねったが、やがて「毎晩」という言葉から、その体液というのが倫くんの精液のことだと気付いて、真っ赤になってしまった。
「ちょっ、待ってください!
あれって、いつも神通力で綺麗にしてくれてるんじゃなかったんですか⁈」
「いえ、外側は綺麗にしていますけど、中はしていませんよ。
普通、人間が出したものだとあんなところで吸収したりはできませんけど、私はまあ、人間ではありませんから、出すものも人間と同じというわけではありませんから」
それでは、毎晩中出しされていたアレは、神通力で掃除してもらっていたわけではなく、僕の体の中に全部吸収されていたということだ。
突然聞かされた事実に、僕はなんだかめまいがしてくる。
「まあ、いいじゃありませんか。
そのおかげで身についた神通力で、お酒に強くなったのですから。
それにたぶん体も多少丈夫になって、風邪などもひきにくくなっていると思いますよ。
あと、私達の体液には即効性の体力回復効果もあるので、夜多少疲れてもすぐに回復できるから便利でしょう?」
「ええ? まさかそれも神通力の影響だったんですか?」
確かに毎晩、時には一晩に2回する時もあるのに、その割には翌朝まで疲れが残ったことがないとは思っていたが、それは倫くんがうまく加減してくれているからだと思っていたのだ。
それなのに、実は倫くんが出したものの力で回復していただなんて、確かに便利は便利だけど何だか納得がいかない。
というか正直に言えば、幾ら倫くんのものとはいえ、あんなものを自分の体に吸収しているのかと思うと、生理的にちょっと嫌だというのが本音だ。
「……あの、だったら今晩から避妊具使ってもらえませんか?」
「え? 今さらではありませんか?
もう今まで数え切れないくらい避妊具を使わないでしているのに」
「そ、そうなんですけど……」
「とにかく、私は嫌ですよ。
私の力が拓也の中に染み込んで馴染んでいくあの瞬間が楽しいのに、避妊具なんか使ったらその楽しみがなくなってしまうじゃないですか」
「えっ、なんなんですか、その楽しみ方は……」
倫宮司の何だかマニアックな嗜好に、僕は若干ひいてしまう。
けれども、結局その後も僕が避妊具を買いに行くことはなかった、ということは言い添えておかなければならないだろう。
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