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コタツと猫

短いですが猫の日に便乗で。 茶トラ猫姿のノリさん視点。 ────────  この地域を守護する神の神使として、たまに猫の姿で町内の見回りをすることにしている。  猫の姿なら動物たちの話も聞きやすいし、人の目線では見えないものが見える場合もあるからだ。  今晩も猫の姿で見回りを終えて神社に戻ると、自宅の方の庭先に回り居間の前で「にゃー」と鳴く。  するとすぐにサッシが開いて、拓也が「おかえりなさい」と出迎えてくれた。 「見回りお疲れ様でした。  今日はどうでしたか」 「ええ、いつもと変わらず、平和なものでしたよ」 「そうですか。それはよかったです」  拓也が猫の姿の俺に敬語で話しかけているのは、猫の時の俺が宮司の時と同じ、老人の声で話しているからだ。  別に若い男の声で話しても構わないのだが、最初にこの姿で拓也と話した時が宮司の声だったので、なんとなくそのままになっている。  まあ、猫に向かって敬語で話しかける拓也はちょっと笑えるし可愛いので、このままでもいいかと思う。  自分で足を拭いた俺がそのままコタツ布団の角で丸くなると、拓也は不思議そうな顔になった。 「人間に戻らないんですか?」 「ええ、たまにはいいでしょう?  冬と言えば、コタツに猫ですから」  俺がそう言うと、拓也はちょっと笑った。 「確かにそうですね。  それじゃあ、僕も失礼して」  そう言って拓也もコタツに入ってきたので、俺は我が物顔で拓也の膝の上に乗る。  拓也の太ももの上で安定するところを探して丸くなると、拓也は俺の体を撫で始めた。  拓也は猫好きで、よく近所の猫を可愛がっていたらしく、猫を撫でるのがうまい。  猫の姿は仮の姿だが、それでも変身すると自然と体質や習性も猫のものになるので、のどを絶妙な力加減でくすぐられると、ゴロゴロとのどを鳴らしてしまう。  撫でている方の拓也も機嫌がよさそうだ。  人の姿の俺と一緒にいる時には見せないようなとろけ切ったような顔をしているので、俺としてはちょっと複雑な気分だ。 「重くはないですか?」 「ええ、ちっとも。  むしろ、あったかくて気持ちがいいですよ」  それもむしろ、人の姿で事後に添い寝した時にでも言わせたいセリフだ。  けど、拓也は照れ屋なところがあるから、俺が人の姿の時はきっとそんなことは言わないだろう。  だからたまにはこんなふうに猫の姿になって、いつもと違う拓也を見るのも悪くないと思う。  拓也の上には毎晩のように乗っているけれども、こんなふうに猫の姿で乗るのは、人の姿の時とは違う気持ちよさがある。  あったかくて、安心できて、ここが俺の居場所だという、そんな気持ちよさが。  たまには神使や拓也の恋人を休んで、拓也の飼い猫でいるのも悪くないかもな。  そんなことを考えた俺は、少しだけ、と思いながら、拓也の膝の上で目を閉じた。

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