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14 告白

そして倫之くんの神主体験3日目の午後のことだ。 2人で境内を掃除していると、宮司が慌てた様子で社務所から出てきた。 「2人ともすみません。  急なことで申し訳ないのですが、長野の同級生が亡くなったので、今からお通夜に行ってきますから、神社をお願いできますか。  明日のお葬式に出て午後には戻りますから」 「わかりました。  こちらは大丈夫ですから気をつけて行って来て下さい」 返事をする僕の隣で、倫之くんもうなずいている。 「ありがとうございます。  それでは私は自宅で着替えて、そのまま裏から出ますので」 「はい、いってらっしゃい」 宮司はそう言うと自宅へと戻っていった。 遠回りになるのにわざわざ裏から行くのは、喪服で境内を通らないようにという配慮だろう。 宮司を見送った僕は、倫之くんに掃除道具の片付けをお願いして、宮司の代わりに授与所に入った。 ──────────────── 宮司が出掛けた後も特に問題はなく、いつも通り5時に授与所を閉めて倫之くんと2人でお賽銭の回収と精算をしてから自宅の方に戻った。 今日も倫之くんに手伝ってもらって晩ご飯を作り、居間のコタツで2人で話をしながら食べた。 食べ終わった食器を台所のシンクに運び、僕が洗った食器を隣で食器を拭いてくれている倫之くんに手渡しながら、宮司はそろそろお通夜に出てる頃かななどと考えていると、ふいに倫之くんから声をかけられた。 「中芝さん、これ片付けたら少し話があるんですがいいですか」 「え、話?  うん、いいけど」 改まって何だろうと思いながら残りの食器を洗ってシンクを軽く掃除し終えると、倫之くんは台所のテーブルの方に座った。 コタツでくつろいでするような話ではないのかなと、少し緊張しながら僕も倫之くんの向かい側に座る。 倫之くんはしばらく何かを考えるようにじっとうつむいていたが、やがて顔を上げて俺を見た。 その顔付きは初めて見るような真剣なものだった。 「中芝さん」 「はい」 「俺、中芝さんのことが好きです」 「……え?」 唐突な告白に、僕は呆然とする。 あまりにも突然過ぎて、恋愛とかの意味じゃない『好き』なんじゃないかと思ってしまったが、倫之くんの真剣な顔を見ていると、やはりそれは恋愛の『好き』だとしか思えなかった。 「……あの、僕は男だよ?」 驚きのあまり、そんな当たり前のことを口にすると、倫之くんは「わかってます」とうなずいた。 「俺、ゲイなんです。  中芝は、そういうの気持ち悪いですか?」 「いや、別に気持ち悪くはないけど……その、自分が男の人にそういう対象になるって考えたこともないから、よくわからないっていうか……」 「じゃあ、今考えてみてくれませんか」 倫之くんは身を乗り出して、そんなことを言う。 「ちょっ、ちょっと待ってよ。  男同士っていうことは別にしても、そもそも僕たちまだ会って3日しか経ってないよね?」 「はい、でも好きになったんです。  最初に中芝さんが僕に白衣と袴を着付けてくれた時、中芝さん、俺に『かっこいい』って言ってくれましたよね?」 「う…ん、そう言われてみれば言ったかな?」 というか、その時だけでなく、他にも何回か言ったと思う。 実際、倫之くんはかっこいいから、割と気楽に口に出していたような気がする。 「俺、自分で言うのはなんですけど、『かっこいい』っていうの、結構言われ慣れているので、そう言われても普段は別に何とも思わないんです。  けど、中芝さんに言われた時はなぜかドキドキして、うれしくて……。  ああ、これは好きなんだなって気付きました」 倫之くんの説明に、僕は絶句する。 まさかそんな何気ない一言で、好きになられるなんて思いもしなかった。 「っていうか、中芝さん自覚ないんですか?  俺のこと、かっこいいとかいうけど、自分だって俺のこと言えないくらい、かっこいいですよね?」 「え、いや、それは……」 この顔のせいで散々女性関係のトラブルに会ったので、一応自覚はある。 けれども、この本物のイケメンから面と向かって言われて困惑してしまうのは、自覚とはまた別の話だ。 「それに、優しくて僕にも親切にしてくれるし、仕事に対する態度も真面目で尊敬できるし、参拝者にも好かれていて本当にいい人なんだなって……」 「ちょ、ちょっと……」 次々と褒め言葉が出てきて、僕は思わず倫之くんの言葉をさえぎる。 たぶん今、僕の顔は真っ赤になっているだろう。 「俺は、中芝さんの恋愛対象にはなりませんか?」 倫之くんにそう言われて、僕は真剣に考えてみる。 男の人が恋愛対象になるか……はよくわからない。 恋愛関係のトラブルが多かったせいで、そもそも僕は恋愛というもの自体にあまり興味がないからだ。 それでは倫之くん個人に対してはどうだろう。 倫之くんの顔は、かっこいいと思うくらいだから、好印象なのだろう。 特につり目の目元はキリッとしてかっこいいと思う。 僕が教えることを真剣に聞いたり真面目に働いているところは好感が持てるし、参拝者に丁寧に接しているところもいいと思う。 倫之くんが書く綺麗な文字も好きだし、歴史好きで僕と趣味が同じなのも話があっていい。 それに、倫之くんのやや低めのよく通る声も、実は好きだ。 そうやって、倫之くんの好ましいと思える点を一つずつあげていくうちに、僕はふとあることに気付く。 ──違う。 僕は倫之くんに好感を持ってるんじゃない。 倫之くんの中の、宮司に似ている部分に好感を持ってるんだ……。 倫之くんの、つり目の目元も、参拝者に丁寧に接するところも、綺麗な文字も趣味が合うことも、やや低めの声も全部、宮司に似ていると思っていた。 だから僕はきっと、倫之くん個人に好感を持っているのではなく、倫之くんを通して宮司を……。 「………ごめん」 「え?」 思わず僕の口から出た謝罪が聞き取れなかったのか、倫之くんが聞き返す。 「ごめん……!」 僕は今度は大声で同じ言葉を繰り返すと、ばっと椅子から立ち上がり、そのまま走って台所を出てしまった。

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