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第3話
薬をのんで、約1カ月が経った。なかなか変化がみえなかったから不安だったけれど、ようやく僕はオンナノコになった。
出張に行っている真斗にメールをいれるとすぐに電話がかかってきた。
「もしもし」
『できたって本当か!?』
「うん」
『よっしゃ! 体調とか悪くなったりしてないか? 少しでもおかしいって思ったら無理すんなよ』
「うん、大丈夫。ありがとう」
『明日には出張終わるから、おとなしく待ってろよ。一緒に病院にいこう』
「うん、待ってる。真斗もお仕事頑張ってね」
お互いにおやすみを言い合ってから通話を切った。
「もう少し、なんだね」
そこに宿るであろう命を想像して、僕は下腹部あたりを撫でる。
「もう少しで、僕にも家族ができる」
愛しい人との子供が、家族ができる。そう思うと口もとが緩んで仕方がない。
僕は、口元をおさえながらお風呂場へと向かう。はやく、明日をむかえるために……。
「みちる、みちる」
かすかに聞こえる愛しい人の声につられて、僕はまぶたをゆっくりと開いた。
まだ帰ってきていないはずの真斗が目の前にいるのがみえて、まだ夢の中だと思った。
「……まさと、あいたかった」
夢ならば、と真斗に腕を伸ばし抱きしめる。
真斗は、驚いたように声をあげながら耳まで赤くさせていた。それが愛しくて、彼の頬に自分の頬をすり合わせる。
「み、みちる……」
切羽詰まったような彼の声が聞こえ、内心、首をかしげる。
(なんだか、リアルな夢だなぁ)
「医者に診てもらう前にスルわけにもいかないから、起きてほしいなぁ……なんて」
「……え、真斗!?」
はっ、と目をさますと近い位置に彼の顔があり、驚いて飛び跳ねるように距離をとった。
「ただいま、みちる」
「おかえり…………早かったね」
カーテンの隙間からみえる空は、白みはじめたばかりで、時計を確認すると5時ちょっと前だった。
「あぁ、電話したあと急いで搭乗券とって帰ってきたからな」
「えっ、仕事の方は大丈夫なの!?」
「事情は話してきたから……むしろ、帰れって言われちまった」
「そっか」
ホッと小さく息をはく。僕のせいで仕事に影響があったりしたら大変だ。
「ほら、ご飯食べて早く病院に行こうぜ」
「うん!」
真斗に腕を引っ張られ立ち上がると、久しぶりに2人で食べられることが嬉しくて、僕はとびっきりの笑顔で返事をした。
「おめでとうございます。綺麗にハーフになられていますよ」
婦人科の女医に笑顔で男と女のハーフだと告げられて、僕と真斗は抱きしめあって喜んだ。
「診察は以上です。ハーフになられたことで、様々な変化が見られると思います。不安なことがありましたら、いつでも相談に来てください」
「ありがとうございました」
お礼を言って席を立つと僕と真斗は診察室をあとにした。会計をすませるため待合室で名前を呼ばれるのを座って待つ。
「みちる、飲み物とか買ってくるけど何か飲む?」
「うん、ミルクティー買ってきて」
「わかった、ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃい」
財布と携帯だけ持って売店に向かった真斗に手を振る。
真斗とのこれからを考えてつい、頬を緩めてしまったその時だった。
「あれ、みちるじゃん」
「……カイくん」
この世でもっとも会いたくなかった人に、よりにもよってこんな時に会ってしまった。
「久しぶり、元気にしてた?」
「……うん」
「それで、あれからオンナノコにしてくれる彼氏でもみつけた?」
「カイくんには、関係ないでしょ」
「まぁ、そうだけど……また俺にしつこく迫ったみたいに困らせてるんじゃないかとおもってさ」
「あれは——……」
しつこくといっても、たった一度だけ呟いてしまった程度だ。それでも、彼にとっては困るほど迷惑だったのだろう。そう思うと涙が溢れそうになった。
(……そんな風に思っていたなんて、知らなかった。真斗は、どう思ってるのかな)
「……みちる?」
「真斗……っ」
真斗の声にホッとして、堪えていた涙が溢れた。その姿をみた真斗は、目を丸くしたあと射抜くような目線をカイくんに向けた。
「みちるに何をした?」
真斗に手を引かれ背中へと隠される。頼もしいその背中にきゅんと胸が甘く高鳴る。
「べつに話をしていただけだけど……そちらこそ、どちらさま?」
「みちるの恋人の東野真斗」
「恋人の……東野さん、悪いことはいわない、みちるとは別れた方がいい」
「…………は?」
今まで聞いたことのない真斗の低い声に、僕はビクリと肩を揺らしてしまった。
「彼はオンナノコになりたいそうで、その薬を買わされたうえに結婚まで求められるかもしれないよ。俺のときもそう言ってきたからさ」
「それは、願ったり叶ったりだ」
「はっ、正気かよ」
鼻で笑われ、真斗の身体が一瞬だけ震えた。真斗は笑顔を保っているが眉が痙攣するように動いているのをみるとどうやら怒っているらしい。
「……本当はもう少し雰囲気のあるところで言いたかったけど……みちる」
「は、はい!?」
いきなり呼ばれ返事をすると、左手を持ち上げられ、すっ、と薬指に冷たい感触がつたった。
「結婚しよう、みちる」
「え……いいの?」
「あぁ」
「……本気にしてもいい?」
「あぁ」
「嬉しい!」
真斗に飛び跳ねるように抱きつくと、ぎゅっと抱きしめ返してくれる。あぁ、なんて幸せなのだろう。
「なんなんだよ、おまえ……おまえらは、ありえねぇ」
まるで恐ろしいものを見るかのようにカイくんは僕たちを見ていた。しばらくすると、ありえねぇ、と何度もつぶやきながらフラフラと待合室をでていった。
「みちる、帰ったらさ」
「ん?」
「俺だけに見せる顔、見せてよ」
そう言って真斗は、僕の指輪に唇をおとした。
家に帰るとそのまま寝室へと向かい、真斗の唇が僕の身体中に触れた。
「まず一本いれるよ」
オンナノコの部分にまずはゆっくり入っていく。あまりのキツさに彼のモノが入るのか不安だったが、指を増やしていくうちに柔らかくなっていくのを感じた。
「そろそろ、いれるぞ」
「あっ……ん」
彼のモノを濡らすように擦られ、ゆっくりと中へと入っていく。あまりの痛みに息を止めると彼は動きを止め、優しくキスをした。
「痛いよな、ごめんな」
「……だい、じょうぶ」
続けて、そう言うと真斗は再び動きはじめる。ぷつり、と中でなにかがはじけるような感触に僕は嬉しくて涙がながれた。
「ありがとう」
真斗は、そう言って僕の目元にキスをおとした。
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