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第3話
「力、抜けよ」
ぐっとそこに圧がかかり、翔真の先端に抉じ開けられる。ひきつるような痛みがあったのは最初だけで。内壁を圧倒的な質量と快感が押し開いていく。
瑞希は慌てて両手で口を塞ぐ。
「ん、ンンッ……!」
敏感に感じる所を擦られながら、体の深い所まで沈められる。最後は奥を突き上げるような衝撃がきて。それだけで瑞希はイッてしまっていた。噴き上げた白濁は、きちんとゴムに受けとめられたらしい。
「まだ挿入 ただけだぜ?コレつけて正解だったな」
「わざと……したくせに」
翔真は瑞希が一番快感を覚える角度で挿入したのだ。
答える変わりに、翔真が腰を揺すって抽送を開始する。リズミカルな律動を刻まれて。痛みはなく、純粋な快感だけが、瑞希の体の内を蹂躙していく。
「んっ、ンッ、ンンッ、……っう、んんっ……」
しっかり口を押さえていても、知らず声が洩れる。
「声、我慢してる瑞希のカオ、やらしい。目隠し、いいぜ。そそる」
翔真のモノをきゅうっと無意識に締めつけたのと、翔真のモノが瑞希の中でさらに大きくなったのが同時だった。
「あっ……」
「……っ!」
深く繋がった場所で、互いの体の変化を感じてうめく。
「こら、締めつけすぎだろ」
「……んなこと言ったって」
速いペースで抜き差しされたかと思うと、快感を最大限に引き出すような弛い動きで焦らされて。
(あっ……気持ち、いい……)
いつからだったろう?痛いだけだったセックスを、気持ちいいと感じ始めたのは。
強張って頑なになる入り口を、半ば強引に開かれて、翔真のモノを体の奥深くまで沈められて。最初の頃は本当に苦痛でしかなかった。
だけど、翔真と繋がりたいと思うだけで、自然と体は受け入れ方を覚えていった。『翔真』を覚えていった。
だが、今は固い机の上、負荷のかかる背中にだんだん痛みが生じていた。
「しょ……うまっ、せ、背中、痛……っ」
顔を歪めて瑞希が訴えると、気づいた翔真が動きをとめる。翔真のモノがゆっくりと抜け出ていく。
足を静かに床に下ろされる。体の向きを、机の上に腹這うように変えさせられた。自然と翔真に尻を突きだす格好になる。
双丘に手をかけられ、押し開かれて。後ろから翔真のモノを挿入し直される。
「っああッ……!」
達 くのは辛うじて免れたものの、頭の中が真っ白になった。目をきつく閉じていても、目の前がチカチカ点滅するみたいに感じる。
一突きされるごとに、熟れた粘膜を痺れるような快感の疼きが襲って。ゾクゾクと背筋を駆け抜けるものがあった。
体の負担が少なくなって、より快感を得やすくなっている。翔真も動きやすいのか、突き方がいつもより少し乱暴で荒っぽい。
「ヤバイ。目隠しでバックだと、マジ、瑞希のこと犯してるみてぇ」
もう、これ以上熱くなれないと思うのに、さらにカッと体温が上昇する気がした。
「瑞希、興奮すると肌が朱 くなるよな。ケツが今、桜みたいなピンク色になったぜ」
「あッ、このっ……変態ッ……!」
身を焼くような羞恥を誤魔化すために、わざと毒づいてみる。
「少しくらい過剰で強引じゃないと、愛されてるって感じないくせに」
「っあッ……あぁ……っ!」
何度も瑞希に腰を打ちつけながら、翔真の口から返ってきたのは、冷静にあしらうような言葉だった。
悔しい。言い当てられるのも悔しいけど、否定できないのは、もっと悔しい。
けれど、今は何よりも目先の快感に翻弄される。
「あっ、もう、やだぁ……っ……」
抗えない悦楽に、背筋が勝手に反り返る。
もう、幾ばくももたない。
「欲張りなココも」
翔真が繋がっている場所に指を這わせる。
「はしたないココも」
今度は瑞希の前に手を回して握り込む。
「全部好きだぜ」
苦しい体勢で後ろからキスを求められる。絶頂の喘ぎ声は、翔真の唇にすべて奪い取られた。
目隠しを解いて、翔真が抱きしめてくる。
「悦かったぜ、瑞希。ありがとな」
セックスの後、瑞希を抱きしめながら翔真が必ず口にする言葉。セックスへの持ち込み方はいつも強引なくせに、瑞希への本気の感謝は怠らないから、自然と許してしまう。
答える変わりに、翔真の首を抱き寄せてキスする。翔真が瑞希の口づけに応える。制服を通しても伝わってくる翔真の心地いい体温。まだ、熱っぽく残る余韻に今はただ身をまかせて。
人気のない廊下の水道で、二人で手を洗う。翔真のハンドタオルは後処理に使って汚してしまったから、瑞希のを翔真に渡したその時だった。
「お前たち、まだいたのか?」
背後から声をかけられて、瑞希は飛び上がりそうなほどびっくりする。
振り返ると担任の澤村が立っていた。階段を上がってきた所らしい。
翔真が即座に応じる。
「今日で終わりかと思うと、懐かしくなっちゃって。雨音 と話し込んでました」
「そうか。お前たちは仲がいいな。日浦は本当に頼もしくて、助けられることが多かった。ありがとう」
次に澤村は瑞希に目を向ける。
「雨音は明るくなった。勉強ができるだけじゃなく、よく笑うようになった。クラスにも馴染んでいるのを見て安心したよ」
澤村は二年連続で担任の先生だった。最初は好きになれなかった担任が、自分を見ていてくれたことに、瑞希は嬉しくなった。
「二人とも受験したのは、国立大の医学部だったな。まあ、お前たちなら大丈夫だろう。これからも頑張れよ」
「あざーす」
「ありがとうございます」
「また、報告に来い」
それだけ言い残して、澤村は去っていった。
翔真と並んで歩く帰り道。辺りは暗くなり始めている。瑞希の鞄は翔真が持ってくれていた。
まだ尻に異物が挟まったような違和感がある。思わず腰に手を当てると、翔真に見とがめられた。
「痛む?」
「お前がよけいな持久力、発揮するからだろ」
そう言って睨むと、翔真がニヤッと笑った。
「いつもと違うスリルも、シュチュエーションも悦かったろ?最後はお前も感じまくってたしな。教室でしたのが良かった?それとも目隠し?」
瑞希は翔真に向かって拳を繰り出す。けっこう本気だったパンチを軽くキャッチされたあげく、
「おっ、猫パンチ」
ボソッと呟かれて頭に血が上る。
瑞希はふと別のことを思い出した。
「そうだ。お前のハンドタオル出せよ。俺が洗うから。お前、ポケットに突っ込んだまま洗濯に出しそうだし」
翔真はちょっと考えたようだが、おとなしくポケットからハンドタオルを出して瑞希に渡す。
「サンキュ。料理もできるし、家事もひととおりできて、嫁には最高じゃん。ホント、結婚しようぜ」
4月からのことも視野に入れて、瑞希は受験勉強の合間に、祖母から料理や洗濯の仕方を習っていた。
「受かってたら、俺たち一緒に暮らすって約束だからな?俺の将来、楽しいことしかないぜ」
「言ってろ、バカ」
翔真は本当に楽しそうだ。その顔がふと真顔になる。
「瑞希、卒業と一緒に、余計なものは置いてこうぜ」
翔真が瑞希に向かって手を差し出す。
「笑った顔も、怒った顔も、泣いてる顔も全部見たいから。だから、全部俺にくれよ。そのまんまの瑞希でいい。もっと赤裸々で構わないから」
そのままでいい。
瑞希の胸に温かいものが広がった。
言ってることはめちゃくちゃだけど、今はただ、黙って差し出された手を取ればいい。
3月某日。合格発表の日。
瑞希は翔真の部屋に上がり込んでいた。
インターネットに合格が発表される時間になった。翔真は余裕ありげに、瑞希は祈るような気持ちで、受験番号を探していく。
先ずは翔真の番号があった。翔真がガッツポーズする。続いて瑞希の番号が……。
「あった!」
思わず二人で抱きあって、喜びの歓声をあげる。
勢いあまって、そのまま翔真に押し倒された。
「だから、言ったろ?受かってるって」
翔真の顔が近づいてくる。
その唇が自らの唇に重なるのを、瑞希は待った。
-- fin --
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