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第1話
魔がさしたんだ。
「先輩……なにしてるんですか?」
匡人 の学ランを握りしめ夢中になって自身を慰めている姿を、よりによって本人に見られてしまうなんて。静かに終わるはずだった俺の初恋は、音を立てて崩れ落ちた。
それは、ちょうど一年前の今日。
だからこそ俺は今、目の前で起こっているこの状況が理解できない。
なぜもう二度と会う事はないと思っていた匡人が目の前に立っているのか。
しかも、大学入学を機に住み始めた俺のアパートの部屋の前で。
アパートの前には大きな桜の木が立っている。桜の花弁が風に乗ってひらひらと舞い込んできたのと同時に。
「──責任を取ってください」
俺の事を真っ直ぐに見つめるその視線には、どういう意味があるというのか。
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