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第2話
一年前のあの日。
卒業式の当日、別れを惜しむように集まる人の輪から少し離れて俺は体育館をそっと覗いていた。
体育館の中ではバスケ部の後輩達が練習を始めていて、卒業式という感傷に浸っている三年とは違い、日常の時間が流れている。
そしてつい半年程前まで所属していたバスケ部で一際目立つあいつを見つめていた。
岸谷 匡人 のフォームは美しい。
ボールを支える軸の角度、放つ時の手首のスナップ、スリーポイントラインから放たれる放物線。全て完璧で初めて見た時も一瞬で魅了された。
その姿を見ていると胸が熱くなってくる。そしてもう会えないと思うと、どうしようもない虚しさがこみ上げてきて、俺は後輩達に声をかける事なく体育館を去った。
この不毛な片思いはもう終わりにしよう。そう思って遠くの大学を選択した。
そして卒業式の今日、引っ越しをする。
でもその前に少しだけ……と、部室に寄ったのが全ての間違いだったのかもしれない。
誰もいない部室はしんとしていた。
つい先日まで使っていたロッカーは新入生が使う為に空いていて、こうして俺のいた形跡なんてなくなっていく。匡人と過ごした思い出だって同じだ。
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