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第3話
匡人は友達の弟だった。
高校一年の時、県大会予選会場で仲のいいクラスメイトの岸谷に会った。話を聞くと同じ会場で行われていた中学の予選を観に来ているのだと言う。
「あの4番が俺の弟。匡人って言うんだ。来年はうちの高校に入学する予定だからさ、バスケ部入ったら宜しくな」
岸谷がコートを指差した瞬間、放たれたスリーポイントシュートに一瞬で心を奪われた。
そして二年になる春休み。バスケコートのある公園で匡人と偶然会い声をかけた。
「お前さ、岸谷の弟だろ」
すると殆ど表情を変える事なく顔を上げた匡人は。
「兄の友人なのかもしれませんが、岸谷の弟って言われても僕も岸谷です。あなた誰ですか」
第一印象はクソ生意気だった。
「俺は菅原 光希 。つか、先輩に生意気な態度だな。俺はお前の兄貴に宜しくって頼まれてるんだぞ」
「先輩だったんですか。僕は頼んでませんけど」
思えば最初から俺達はちぐはぐだった。
匡人は終始鬱陶しそうだったし、俺は俺で無駄に突っかかってしまう。
でも一緒にバスケしてると凄く楽しかった。俺はポイントガードをやっていたからシューティングガードの匡人に完璧なパスが出せると嬉しかったし、間近で見た匡人のシュートはやはり美しかった。
「なぁ、岸谷! 岸谷にも言ったけどお前のシュートってさ」
「あの先輩。さっきから僕の事も兄の事も岸谷って呼んでて、どっちの事言ってるのかややこしいんですが」
「あ、そっか。えっと」
俺が呼び方を考えているとびゅっと風が吹いてゴールの後ろに咲いていた桜の木から花弁が少し舞う。すると匡人はシュートを放ちながら。
「匡人でいいですよ」と言った。
その時ほんのりと匡人が微笑んだ気がして、俺の胸は思った以上に高鳴ってしまった。
当時の俺はその胸の高鳴りに付ける名前が見当たらなかったけど、これが始まりだった。
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