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「離せ」 平日の夜、一時間ほど残業してレンタルショップでホラー映画を借り、牛丼屋で夕食をテイクアウトしてきた小野田麻貴(おのだまき)は目を見開かせた。 自宅マンションまで残り僅か、自分が利用しているゴミステーションの傍らで。 日暮れが遅い夏の宵にようやく際立ち始めた外灯、ぼんやりした明かりに照らし出された彼の横顔に視線を奪われた。 「麻貴さんから離れろ」 ビジネスバッグを持つ麻貴の手首は元恋人の男にきつく握り締められていた。 そんな男の手首をもっときつく握り込んだ彼。 第一ボタンが開かれた半袖の制服シャツ、ネイビー系のチェック柄ズボン、黒の革靴。 右肩にはスクールバッグ。 両耳ピアスにシンプルなレザーブレスレット。 やや尖った目つき、褐色肌、雑誌で紹介されていそうなセットに隙のない髪型。 「……琉真……」 北川琉真(きたがわりゅうま)は医療機器メーカーに勤務する二十七歳の麻貴より十一歳も年下の男子高校生だった。 暗くなっても和らぐことのない熱気に火照っていた麻貴の肌はさらに熱くなった……。

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