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第2話
「はじめまして。榊です」
黒斗は背筋をきちんと伸ばし、軽く頭を下げる。
背の高さは175センチある鷲より顔半分くらい大きく、細身だが筋肉がしっかりとついている。しかも容姿は爽やかで男前である。
「格好いいね、彼。イメージに合いそうだよ」
「よかったです。では、俺は蔵で資料をお借りしてから帰りますので」
失礼しますと蔵へと行ってしまった久野を見送った後。
「わかった。じゃぁ、榊君、ついて来て」
と、鷲は彼を連れて部屋を移動する。
黒斗を連れてきた場所は着物を着る為に作った部屋で、スタンドミラーと着物用の桐箪笥しか置いていない。
「鷲庵先生?」
一体ここで何をするのかというような顔で鷲を見る黒斗に、
「榊君、久野さんから話は聞いているかな」
「はい。もし、お役にたてることがあればと思いまして」
何でも言いつけてくださいと、力いっぱいに言いながら目をキラキラとさせる黒斗に、鷲は可愛いなと思いながら肩に手を置く。
「ありがとう。じゃぁ、さっそくお願いしようかな」
と、黒斗の為に用意した襦袢と半着、それから袴を箪笥から取り出してたとう紙を開く。
「和服?」
「うん。これを榊君に着て欲しいんだ」
まずは襦袢からと黒斗に手渡すが、着るのは初めてなので着かたを教えて欲しいと言われる。
「あぁ、そうか。あまり着る機会などないものな。では、俺が着付けてあげよう」
鏡の前に立たせ服を脱ぐように言う。
パンツ一枚の恰好になった所で着付けを始めていく。
「それにしても黒斗君は良い体つきをしているな……」
割れた腹筋を見ながら、自分はただ細いだけなので羨ましく思う。
「高校まで剣道をやってました。大学に入ってからは後は引っ越しのバイトを」
「そうなんだ」
そう言いつつ、腹筋へと手を伸ばして撫でる。すると、黒斗が焦りながら止めてくださいと身をよじった。
「あぁ、すまん。つい」
張りのあるさわり心地の良い肌だった。
もう少し触れていたかったとか思ってしまったが、変な目で見られたら嫌なので止めておく。
「いえ、あの、先生……」
着付けの続きをして欲しいとばかりに困り顔で鷲を見る黒斗に、
「あ、うん。すぐに済ませるから」
着付けを再開し、されるがまま状態の黒斗は鏡越しに自分に視線を向けている。
ふっと笑みを浮かべて見つめ返してやれば、恥ずかしそうに視線を外してしまう。
鷲は若者の見せる反応を好ましく思いながら着付けを進めた。
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