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第3話

 物語の主人公は片目を失った武家の嫡男である黒田芳親(くろだよしちか)と蘭方医である大窪保(おおくぼたもつ)だ。  二人は幼馴染であり互いに好きあっているのだが、芳親が黒田の嫡男という立場故に、気持ちを伝える事が出来ないという設定で、気さくで色男な芳親は町民に好かれており、時たま見せる色香におなごだけではなく男からも色目で見られることがあった。  そろそろ芳親にも妻をという話となり、黒田の当主が決めた相手を妻として迎えることになる。  だが、ある日の事だ。芳親に恋心を抱いていた下男に迫られ、仕置きをした後に男を追い出しすのだが、その出来事が男の愛情を憎しみへとかえてしまうことになり、暗く細い路地裏で男とその仲間に襲われて目と腕を失ってしまったのだ。  大けがを負った芳親を保は見ているだけしかできなくて。何も出来ない事に対して悔しい思いをしたのだ。  そんな出来事があり、保を医学の道へと歩ませる事となる。  蘭方医学を学ぶために家を出てから数十年。立派な蘭方医となった保は芳親と再会を果たし……。  そこから二人の恋愛話となっていくのだが、保のモデルを黒斗にという訳だ。 「爽やかなイケメン……、この話で言えば色男の蘭方医なんだよ、保は」 「えぇッ、鷲庵先生、それって俺には荷が重いですよ」  俺なんて普通の大学生ですよと苦笑いする黒斗に、 「なんで? 榊君そのものだよ」  とイメージ通りだと言う事を話せば、照れながら恐縮ですと頭をかく。 (その可愛い一面もね)  そう心の中で呟き、ますます黒斗を好まく思った。  できるだけ家に来てほしい。そう黒斗に頼んだ。  その頃には榊君と呼んでいたのが黒斗と呼び捨てで呼ぶようになり、遅くまで付き合ってもらった時には食事を作ってあげたり家に泊めるくらいに仲良くなっていた。  黒斗と一緒だと食事を作るのも楽しくて、いつも以上に力のこもった手料理をテーブルに並べる。  彼は良く食べるので作りがいもあるし、胃袋に収まっていくざまは見ていて気持ちが良くなるくらいだ。  風呂に入った後は、浴衣姿でリビングで一緒にテレビを見たり小説の話をしたりするのだが、鷲はまだノートパソコンを睨みつけたままだ。 「鷲さん、どうしたんです?」  黒斗の方でも鷲に対し、はじめの頃は「鷲庵先生」と呼んでいたが、名を教えて欲しいと言われ、それからは「鷲さん」と呼ぶようになっていた。

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