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第4話

 名前で呼ばれる度に嬉しいと感じるのは、この頃は鷲庵の名で呼ばれる事の方が多くなっていたから、か。  家族や友人に呼ばれるのとは少し違う感情だが、きっと年下のイケメンに呼ばれるからだろうと自分を納得させる。 「いやぁ、どうしてもここから先が進まなくてね」  主人公の気持ちが溢れだしてしまい、帯を解いてゆっくりとその身を晒していくシーンだ。 「濡れ場は絶対に書くようにと言われていてな」  衆道モノの話は読んだ事はある。だが、実際に書くとなると手がかたまったまま動かない。  しかも物語は芳親を視点として書いているから、男を受け入れた時の気持ちが解らなくて困っていた。 「あぁ、成程。じゃぁ、実際に体験してみます?」 「……は?」  冗談だろうと黒斗を見れば、目は真剣なものだった。  男同士で、しかも鷲の見た目はただの平凡な男であり、流石に抱こうなんて気持ちになれるような見た目じゃない。 「え、黒斗、君は男も平気なのか?」 「いいえ」  なら、どうしてと困惑する鷲に、黒斗は微笑んで。 「芳親さん」  と、小説の中の主人公の名を呼ぶ。 「黒斗……」 「俺の名前は保ですよ、芳親さん」  唇に触れる黒斗の指に、一気に熱が上がり動けなくなる。  物語の中の芳親のように帯を解いてその身を晒されて。肌蹴た箇所を大きな手がゆっくりと撫でていく。 「だめだ、よしなさい」  その手を止めようと身をよじるが、黒斗の手が触れた箇所がピリッと甘く痺れる。  黒斗は手を動かしたまま、今は保ですと、鷲の唇を唇でふさいだ。 「ん、ふっ、くろ、と」  強引に入り込んだ舌が歯列をなぞり、体が熱くゾクゾクとする。  欲を含んだ口づけは、鷲の理性を蕩けさせ。黒斗の舌に応えるように絡ませ始める。 「……ふぁっ」  熱があがり、息を吐きながら黒斗を見れば、頬を朱色に染めて欲情した目を鷲に向けていてドキッとする。 「ずっと、こうしたかった」  切なくそう呟かれて、胸の鼓動が激しく高鳴る。 「くろと」  物語の中でも保と芳親は互いに欲情し求めあう。  ふ、と、黒斗に保が重なって見え、鷲の中には芳親の気持ちが入り込んだかのように目の前の男を求めるように見つめる。 「……俺もお前とこうしたかったよ」  首に腕を回して口づけをすれば、そのまま抱き上げられて寝室へと連れて行かれる。  くちゅくちゅと水音をたてながら互いの舌を絡ませあい、鷲はベッドに組み敷かれた。

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