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カワイイ系だって攻めたいンです-1

それはまるでマンガの一コマのような出会い。 「や、やめて下さい、オレ、大金なんか持ってませんっ」 「万札ねぇんなら千円札でもいーから」 「ほらほら、痛い目見たくなかったら素直に財布出して」 「っ……い、嫌です」 「「あああああ?」」 夕暮れの繁華街片隅、ゲーセン裏手で見るからにヤンキーな二人連れに絡まれている彼。 至近距離で散々凄まれながらも力一杯両手でスクバを抱きしめてフルフルと首を左右に振り続けている。 咥えタバコで舌打ちした二人は怯える彼目掛けて拳を振り翳そうと。 「くそダサいことしちゃってんな」 不意に届いた一声。 涙目になっていた彼はスクバとヤンキーの向こうに彼を見つけた。 「お前等みたいなの、死ぬほどダサ」 それが築志(ちくし)呂海(ろみ)井手(いで)翔李(しょうり)のファーストコンタクトだった。 「ツクシん、ハイ、あげる」 昼休み、教室で母親お手製のお弁当をもぐもぐしていた呂海はパッチリ目をさらにまぁるく見張らせた。 「週末、バレンタインデーでしょ? だから今日あげとく」 「あ、わたしもー」 「ちょっと待って、放課後渡そうと思ったけど、アタシも今渡すっ」 一人の女子が呂海にチョコレートを手渡すと他の女子もガタガタと慌ただしげに席を立ち、それぞれデザインの違う紙袋を持ってきた。 「わぁ。ありがと」 照れ笑う呂海。 本名は<チクシ>だが<ツクシん>という愛称で男女問わず親しまれている高校一年生。 ふわふわねこっけの天然茶髪、アイメークが映えそうなパッチリ目、平均体型を少々下回る華奢な体つき、萌え袖カーディガンが様になっている。 いつだってソフトな物腰と笑顔で教室の癒し系を担当している。 「ツクシん、モテモテ、今年こそ童貞卒業いけんじゃね?」 一緒に昼食をとっていたクラスメートにからかわれて呂海は「全部義理チョコだよっ?」と、すべすべほっぺたを真っ赤にした。 ……うん。もうすぐバレンタインデー。 ……翔李クンと約束したんだ。 「ちょ、ツクシん、耳まで赤いんだけど」 「お前が変なこと言うからだ、ツクシんに謝れ」 「ごめんっ、嫌いになんないで、ツクシんっ」 「わわわっ?」 いきなり友達に抱きつかれて、ほんの束の間上の空だった呂海は大型犬に纏わりつかれた小型犬みたいにわたわたするのだった。 二月半ばにしては気温の高い真昼に屋上で昼寝するのは最高だった。 「……」 しかし、いつもなら午後の授業をさぼるほど熟睡してしまうはずが、今日の翔李はずっと目覚めていた。 立ち入り禁止の屋上に忍び込んでポカポカした日向を独り占めしていた彼はずっと青空を睨んでいた。 さらさらまっきんぱつ、吊り目、ピアス、パーカーの上に学ラン、踵を履き潰したシューズ。 見るからに不良クンな高校一年生の彼。 「呂海の奴、とうとう覚悟決めたんだな」 ぽつりと意味深な独り言を呟いた翔李の脳裏に昨日の放課後が色鮮やかに蘇る。 『週末? 空いてっけど。どっか遊び行きてーの』 『う……うんっ』 『どこ行く、買い物? 飯?』 『ら……っらぶほ……っ』 お手頃価格のハンバーガーセットを窓際の席で食べていた翔李はゴフっと喉に詰まらせた。 向かい側でシェークをちびちび飲んでいた呂海は深々と俯いており、その耳は真っ赤で。 『バレンタインデー……だよね?』 『あ、ああ、そだな』 『……特別なバレンタインデーにしたいと思って……翔李クンと』 「とうとう呂海と」 普段は必要以上に尖らされている眼光、性格は一匹狼、自分の意に引っ掛かる出来事を見かけようものならどんな相手だろうと立ち向かう翔李だが。 おもむろに取り出したスマホでざっとチェックしていた男同士のえっちの方法を再確認し、落ち着きなく何度も寝返り。 「ローションは、呂海と会う前にドラッグストアで買うとして……つぅかあんな細ぇ呂海にこんなことしたら、アイツ、ぶっ壊れんじゃ……」 男同士のいやんあはんな画像を薄目がちに見、受けのコを呂海に置き換えて、赤面。 チクショー、こんなびびんの初めてじゃねーか。 でも、アイツは、呂海は決心してくれた。 半年前に出会い、それから放課後ちょこちょこ逢瀬を重ね、男同士ながらも想いを通わせ合って……付き合うことになった二人。 急にがばりと起き上がった翔李は青空の下で深呼吸した。 素直でカワイイ呂海相手に童貞卒業できるなんて、俺ぁ、幸せモンだ。

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