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はじまり。

入学式。 俺は遅刻した。 寝坊とか電車が遅れたとかそんなんじゃない。 ただ行きたくなかった。 だから俺は皆が狭苦しい体育館の中で入学式をしている間、こっそり中庭に隠れて昼寝していた。 …桜の木の下。 うっすら目を開ければ ヒラリ…ヒラリ…と花弁が散るのが見えた。 …どうも俺は昔から団体行動と言うのが苦手だった。 言われたことを言われた通りに行う。 別にそれが悪いとは思わないが何もかもが教科書通りのように感じられて、俺には窮屈で仕方がなかった。 それに、集団というのは大きくなればなる程、混ざった異物を取り除こうとする。 気に食わない。時にはそれだけの理由で排除された者もいた。 いじめだ陰口だと、俺はもう うんざりだった。 「……ら………、……と…で……」 そんなことを考えていると、遠くからマイクの響く音が聞こえてきた。校長だろうか。 はぁ…やっと面倒な義務の3年間が終わったと思ったのに、親が行けと煩いから又しても3年間の牢獄行きだ。 今日はもう帰ってしまおうか。どうせ行ったところで今日は大したことはしないだろう。 自分から態々 人口密度の高い場所へ行く気にもなれずそう思って体を起こした時。 「いてっ」 コツン。と何か軽めのものが右のこめかみに当たった。 「なに……紙ひこうき…?」 それは丁寧に折られた白い紙ひこうきだった。 ………なんで…? 取り合えず辺りを見回してみた。が特に人影は見当たらなかった。 もう一度 紙ひこうきに目を戻す。 久々に手に取ったそれは角まで綺麗に折られ、よく飛びそうだ。これを作った人はきっと几帳面なのだろう。 なんだか自分も数年ぶりに飛ばしてみたくなり、手を少し高く掲げた。 すると太陽の光に透けた紙ひこうきに、何やら手書で文字が書かれているようだった。 ………。 少し迷った末 俺は紙ひこうきを解体してみた。 中には一言。 『校長はヅラ。』 ……………。 ……そ、そうなのか…。それは知らなかった…。 なんだか衝撃事実を知ってしまった…。 …学校説明会で1度だけ見た校長の姿を思い出す。俺は半分寝ていたから、うっすらとしか……、失礼。ぼんやりとしか思い出せない。 言われてみればそうだったような、そうでもなかったような… …俺はちょっとだけ…、入学式に出ておけばよかったかなと思った。 …と言うかこれを作った人は何故これを書こうと思ったのだろうか。 一人で作って、一人で飛ばしたのだろうか。 もしかしたら誰かに言いたくて堪らなかったのかもしれない。でも言って良いものかわからず、ぐるぐる考えた結果 紙ひこうきに書いて昇華しようとしたのかも。 「…ッ、…ふっ…、…ククッ…」 それを考えると何だか面白くて俺はしばらく笑いが止まらなかった。 …この人、同じ学年だといいな… 彼なのか彼女なのか。どちらにしろ憂鬱だったこれからの生活が、ほんの少しだけ…楽しみになった。

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