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卒業。
俺と会長は文化祭後も何度か連絡を取り合っていた。
もちろん廊下で会えば話をするし、家に帰ってからも、下手したら学校にいる時でも会話していた。
内容は世間話のような他愛ないものから勉強、進路のような真面目なものまで様々だった。
会長は受験生のためどこかへ遊びに行ったりは出来なかったが、割りと頻繁にやり取りを交わして、それだけでも十分楽しかった。
それとは反対に、紙ひこうきはぱったりと届かなくなっていた。
たまに中庭に行ってみても、特に何も飛んでこないし落ちてもいない。
でも、それはそれで別によかった。
紙ひこうきのことがなくても、俺は学校に行きたくないと思わなくなっていたから。
会長に……会いたくて…。
委員長、もう白状しよう。俺はきっと、いや、確実に会長のことが好きだ。
こんなにも彼のことを思うと胸が高鳴るのだ。
これはもう恋以外にないだろう。
…この思いに気付いてから数ヶ月。
もう今日は卒業式だった。
壇上では卒業生代表として会長がスピーチをしている。
…今日限りでもう彼の姿が見れなくなるのかと思うと、とても胸が苦しかった。
──「会長。」
「…あ、来てくれたの?」
卒業式のあと、生徒会室に行くと会長が一人で外を眺めていた。
「卒業おめでとうございます。」
「なんか照れるな~、…ありがとう。」
「…………」
「…………」
しばしの静寂が流れる。
「……会長…、紙ひこうき飛ばしてたのって、会長…ですよね?」
「…やっぱりばれてた?」
ふふっと会長が恥ずかしそうに笑う。
「…もう飛ばさないんですか?」
「ん~、あれは君に気づいて欲しかっただけだからな~」
「……?それって…「好き。」……え…」
どう言うことですか?俺がそれを訊く前に会長の言葉に阻まれた。
会長が俺を真っ直ぐに見つめる。
「君が好きなんだ。」
「…」
「だから、君に俺のこと気づいて欲しくて紙ひこうき飛ばしてたんだ。」
はじめはただの偶然だったけどね。そう言って会長が窓の外を見た。
「……やっぱり男同士って気持ち悪いよね?」
「……そんなこと、」
「いいんだ。…伝えたかっただけだから。俺もう卒業するし、きみも気にしないで、忘れていいよ。」
いつもより早口な会長の瞳が揺れていた。
「ごめんね、こんなこと言って…ほんと忘れてくれていいから…でも出来れば、」
「会長…」
「出来れば、友達でいいからこれからも…」
「会長!!」
「…連絡…とって欲しいな……」
はじめは頑張って笑っていた顔がだんだん歪み、最後にはとうとう涙が溢れ出した。
なんで…なんでそんなこと言うんですか……?
「…俺、嫌ですよ。」
会長の目が見開かれ更に大粒の涙が溢れた。
「…っ、そ、そう…だよね…、気持ち悪いもんね……っ、ご、ごめ……」
「ッ、そうじゃなくて!!」
俺は大股で会長に近づくと必死に涙を拭う会長の腕を掴んで顔を見つめた。
涙を止めようと擦られた眼は赤くなっていた。
「俺が嫌なのは友達って所だけです!!」
「…へ……?」
「いつ俺が会長と連絡取りたくないなんて言いました?会長のこと気持ち悪いなんて言いました?」
キョトンとした会長の顔に自分のを近づける。
「い…、ってない……けど…」
「俺がいつ、会長のこと好きじゃないなんて言いました?」
「………」
「前にも言いましたけど、俺は…、俺は会長のことが好きです。」
目の前の会長の大きな瞳が揺れる。
「そ、れは、人として…」
「はい。もちろん人としても尊敬してます。でも俺が言ってるのは恋愛対象としての好きです。」
会長の息が詰まるのがわかった。
「同情…じゃ……」
「同情なんかじゃありません。俺は男に同情で好きだと言えるほどできた人間じゃないので。」
「…ほんと…に…?」
「はい。」
「ほんとのほんとに…?」
「ほんとのほんとに。」
「ふっ、…うッ、…ぅぇ……」
今度こそ本格的に会長が泣き出してしまった。
ずるずるとその場にしゃがみ込む。
「会長、好きです…。大好きです。俺と付き合ってください。」
「っ、うん、…ッ、うんッ…!!!」
それからしばらく、チャイムに急かされるまで俺たちはお互いを抱きしめていた。
「……グスッ…」
「……、帰りましょうか、会長。」
「うん…。…俺もう会長じゃないけどね。」
「あ……」
「…ねぇ、名前で呼んでよ。」
「そ、れは……」
「だめ……?」
「…ッ、ま、また今度で、お願いします…。」
「えー?クスクス…しょうがないなぁ。じゃあ今度絶対呼んでね?」
「………ッス…努力します…。」
すっかりいつもの調子に戻った会長は荷物取って来るねと言って先に生徒会室を出ていった。
…一人になりふと窓の外を見る。
中庭が見えた。桜の花がまだまだいけるぞと花弁を舞わせていた。
あの日と同じ春の匂いがする。
俺は近くにあったプリントで紙ひこうきを作って庭の桜に目掛けて投げた。
風に乗った紙ひこうきは綺麗な放物線を描いてどこかへ飛んでいった。
「ん~ッ、俺も荷物取って来よ。」
俺は一度伸びをしてそこを後にした。
春の暖かい光と薄ピンクの花弁が、風と共に誰もいない生徒会室に入り込んでいた。
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