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第3話

そして、1年。 僕は晴れて会社を継ぎ、君と過ごすための一軒家も手に入れた。 準備は万端で、あとは仕事先から帰ってくる君を待つだけ。だが、待てども待てども君は帰ってこなかった。 何か、何か重大な事件に巻き込まれているのかもしれない。居ても立っても居られなくなった僕は、使用人総出で彼を探させる。 数時間後に連絡が入って、聞けば彼は友達の家に泊まっているようだった。 僕が迎えに行くと言ったのを、君は忘れてしまったのだろうか。少しだけ怒りが湧いて、でも明日からは友達と過ごすことも出来なくなるだろうからと寛大な心で許した。 本当は家の前で一夜を過ごしたかったけれど、それでせっかくの再会に風邪を引いては元も子もない。仕方なく自分の家へ戻り布団に入った。明日が楽しみで、なかなか寝付くことは出来なかったけれど。 朝7時には家を出て、また君の帰りを待ち続けた。使用人に任せてもよかったのだが、やっぱり最初に「おかえり」と言ってあげるのは僕でありたい。 そして昼の3時頃、ようやく君は帰ってきた。 「おかえり」 そう言えば君は、あまりの嬉しさに思考が止まってしまったのか数メートル離れた先で歩みを止める。 「どうしたの?やっと会えたのに」 手を広げて待ってみても、近付いて来ない。 不思議に思ってこちらから近付けば、君は大きな声で叫んだ。 「来ないで!!」 その必死な様子に、頭に疑問符ばかりが浮かぶ。どうしてそんなことを言うのだろう。もしかして、僕を誰かと勘違いしているのだろうか。 「ストーカーは、貴方だったんですか……?」 そんな君の的外れな問いに、合点がいくと同時に笑ってしまった。だって僕はストーカーなんかじゃない。確かにやり口は似ている部分があるかもしれないけれど、僕のは全部君への恩返しなのだから。 「僕はそんな低俗な犯罪者とは違うよ。ただ僕は、君と家族になるために来ただけ」 そう言ったのに、君は僕と反対の方向に走り出した。理由は分からないけれど、まずは追わなければ始まらない。 幸い君はそんなに足が速い方ではなく、人並みの運動神経しか持たない僕でも十分に追いつけそうだった。 人の多い場所で騒ぎになっては困るからと、あえて一定の距離を保ちながら走る。人気の無い道に到達した頃に、やっと君の腕を掴んだ。 「嫌だっ、離してください……!」 肩で息をしつつも、なぜか君は必死に抵抗を続ける。本当はもっと素敵な流れでしたかったけれど、声を出させないためには得策だからと君の口を唇で塞いだ。 「んぅっ……」 驚きに目を見開いた表情がとても可愛くて、場所も状況も忘れて舌をいれる。なおも離れようとする頭を片手で引き寄せて、深く深く口付けた。 「……んっ、ふっ」 そういえば、とキスの合間にカバンからそっとそれを取り出す。それは本来、誰か部外者に見られた場合に口止めに使おうと思っていたもの。まさか君に使うとは思っていなかったけれど、濡れた目に光るそれを見せつければ、君はようやく声を失くした。

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