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第2話
しかし、現実はそう上手くはいかない。
本当は今すぐにでも君と家族になってあげたかったけれど、それには障害が多すぎた。
世間体を気にする父。
僕を監視し続ける使用人。
そしてまだ、君は学生だ。
いくら僕らの中に固い絆があったとしても、それが周りに理解されるとは限らない。人の心の分からない奴らは、きっと「誘拐だ」と騒ぎ立てるだろう。
せめて、せめて僕に会社の主導権が渡ったら。
幸いにも僕が社長になると約束された年と、君が大学を卒業する年は同じだった。それさえも運命に感じて、とても嬉しかった。
それから僕は必死に家のために働いた。
勉強して勉強して、父親に自慢の後継だと言ってもらえるように。
君を幸せにするための権力と富を、この手に掴めるように。
僕が30歳になるまで、君が23歳になるまで、会うことは叶わないから、代わりに君が困らないだけのお金をあげよう。
君が僕にくれた幸せの分を、君への資金にしよう。
君が視界に入ったら一万円。
君と目があったら五万円。
君の私物を手に入れたら七万円。
すれ違いざまや電車の中で、君に触れることができたら十万円。
積もり積もった君への貯金は、毎年君の誕生日に送ることにした。
大学生になれば一人暮らしを始めたようで、僕もその近くに引っ越しつつ、送るお金を2倍にした。
きっとすごく、喜んでくれるだろうと思っていた。
だが6年目。いつも通りポストに小切手の入った封筒を入れようとすれば、
『もうお金を入れるのはやめてください』
と書かれた紙がひらひらと落ちてきた。
ゴミに出されていたノートは家に何十冊と保管してきたから、それが君の筆跡だということはすぐに分かった。だが、そこに書かれていた文字の意味までは分からなかった。
なぜ? 君は嬉しくないのだろうか。
でも、どうして?
君から貰えた大切な手紙を片手に、どうして急にそんなことを言い出したのかと考える。
数分経ってようやく、結論に至った。
あぁそっか、お金を渡すだけじゃ愛を感じなかったんだね。気付いてあげられなくてごめん。でも来年になったら、やっと僕らは家族になれるから。
鞄からペンを取り出し、封筒に一言添える。
『来年には、迎えにくるからね』
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