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第6話

「なかったことにしてください」 「もしかして、俺に?」 「ほんとすいません。迷惑でした」  取りあげようとしたら、その手から逃げられる。反射神経は上城の方がずっといい。 「食っていい?」 「おいしくないです。甘いもの嫌いなんですよね」  言ってしまえば、はりきって作ったことが悔やまれる。 「お前が作ったもの、嫌いなわけないだろ。ていうか」  ぼそっと呟かれた。 「……陽向が焼いたのか」  感動的な声で、しみじみと袋の中を見られる。それは、自分の裸を見られるよりも恥ずかしかった。  上城がひとつ取りだし、包装をほどく。茶色くて岩石みたいな塊を、まるで宝石みたいに指先で角度を変えてなんども眺めてから、一口頬張った。  とたんに、相手の歯の間から「ガリッ」という音が聞こえてくる。 「えっ」 「――うっ」  上城が整った眉をよせて、口元を押さえた。 「も、礎さんっ」  陽向はビックリして、上城の袖に手をかけた。 「ど、どしました、なんか、変な音したっ」  上城は、なにか探るような目をしながら、口の中を動かした。  考えつつ、咀嚼して、それから、ごくんと嚥下する。 「ガリッって、ガリッて、いった……なんで」  変な物なんか入れてないのに。 「卵の殻かな」 「まじで」  サーッと血の気が引いていった。 「す、すみません、ほんと、俺、気づかなかった。まさか、そんなものが入っちゃってるなんて」  涙目になって謝る。 「いや、大丈夫。これくらい、俺もよくやる」  料理上手な上城がそんなことをするはずないのに、陽向のためを思ってか優しく言ってくれる。 「ごめんなさい、礎さんに変な物食べさせちゃって」  菓子作りは素人が簡単に手をだしていいものではなかった。本当に地雷が埋まってた。 「ごめんなさい……」  泣きそうな陽向の前で、上城はもう一口ぱくりと食べた。 「もう食べないで」 「うまいよ」  うん、とうなずいて微笑む。 「うまくないです。甘いもの、嫌いなのに無理させてしまって……」  落ちこむ陽向に、上城はケーキをひとつ平らげて言った。 「陽向が俺のために、って気持ちで甘いのなら、いくらでも大歓迎で食える」 その言葉に口端が両側からみっともなくさがる。申し訳なさそうに見あげると、上城はしょうがないな、というように肩を抱きよせた。 「もしかして、ケーキ焼いたの初めて?」 「はい」  上城が、陽向の頭をなでてくる。

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