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第7話

「そうか。そんな貴重なケーキを俺は食べさせてもらえたのか。記念になるな」  嬉しそうに言われて、陽向は上城の心遣いに胸が痛くなった。  ――ああ、ホントに、俺、この人が好き……。  強くて優しくて、思いやりがあって。  ふたりの横には大量のチョコの箱がある。きっと店に来る女性客が持ってきたものだろう。こんなに皆から好かれる人を、俺ひとりが独占していいんだろうか。もったいなさすぎて誰にともなく謝りたくなってしまう。 ぐしゅり、と鼻を鳴らすと、もっと強く抱きよせられた。上城のシャツに頬が押しつけられる。 「ありがとな、陽向」  ぽんぽん、と背中を叩かれ、それから額にキスされた。 「――で」 ギュッと抱きしめ、耳元でささやかれる。 「今日はもう風呂入った?」  上城には、部屋は好きに使っていいから風呂も先に入ってベッドに行ってろ、といつも言われていた。 「……はい」 「明日、というか、今日はまだ、平日だよな」  時計は午前二時半をさしている。  相手の言いたいことが理解できた。陽向の学校のことを心配しているのだ。 「大丈夫です、もう卒業間近なので、今日は授業もありません」 「そか」  上城の声がいささか弾んだ気がする。 「ならもっと甘いもの、食いたいな」  そういって、もういちど額にキスをされた。  先にベッド行って待ってろ、という台詞はなんど言われても慣れなくて恥ずかしくなってしまう。  上城が風呂に行くと、陽向は居間の隣の寝室に入った。自分用のスエットに着がえようとクローゼットの扉をあける。中には収納式衣装ダンスがあり、その一角に自分の物をおかせてもらっていた。ひきだしをあけて、「あ」と声をあげる。一番手前に新品の下着があった。まだ包装されたままのそれは、上城が数日前に「俺が買っといてやる」と言っていたボクシング練習時に着用するためのサポーターだった。 「買ってくれてたんだ」  手に取って見てみる。それは濃いブルーの光沢のある素材で、陽向が日常はいているボクサーパンツとは違うビキニタイプだった。

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